Archive for the ‘所得税’ Category
【所得税】勤続5年以内の退職所得の見直し
政府・与党は2021年度の税制改正で、退職金課税制度を見直す方針だ。役員を除く社員が勤続5年以内に退職金をもらう際、控除額を大幅に上回る場合は税負担の軽減措置を縮小する案が有力だ。
外資など一部企業では給与を少なくする一方で退職金を多くして社員が税軽減を受けるケースがあり、制度の趣旨にそぐわない節税策として問題視されていた。与党の税制調査会で議論し、12月にまとめる税制改正大綱に盛り込む。
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具体的には、勤続5年以内の社員について控除額から300万円程度上回る退職金を得た場合は2分の1の軽減措置が受けられないようにする案を軸に検討する。(2020/11/28 日経)
退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与とされ、次のように計算します。
(収入金額 - 退職所得控除額) × 1 / 2 = 退職所得の金額 | |
【退職所得控除額】 | |
勤続年数20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円に満たない場合には、80万円) |
勤続年数20年超 | 800万円 + 70万円 × (勤続年数- 20年) |
上記算式を見れば、退職所得は優遇されていることがよくわかります。会社に長く勤めるほど退職所得控除額は多くなり、退職所得控除額を差し引いた後の金額を2分の1してくれます。
終身雇用を前提とした時代はこれで特段問題はなかったのですが、人材の流動化・グローバル化とともにいろいろと考える人達が出てきます。
例えば、海外企業から日本の子会社に一定期間出向するという場合、月々の給料は低く抑えて、母国に戻るときに退職金として差額をもらうという方法です。
ところで、上記新聞記事には「・・・役員を除く社員・・・」とあります。
実は、既に役員については平成24年度の税制改正で、勤続年数が5 年以下の場合は特定役員退職手当等として上記算式中2分の1の部分の適用がされないことになっています。(国税庁HP👈クリック)
・・・退職所得については、長期間にわたる勤務の対価が一時期にまとめて後払いされるものであることや、退職後の生活保障的な所得であること等を考慮し、退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1に課税するという累進緩和措置が採られていますが、この2分の1課税があることを前提に、短期間のみ在職することが当初から予定されている法人の役員等が、給与の受取りを繰り延べて高額な退職金を受け取ることにより、税負担を回避するといった事例がかねてより指摘されており、今回の改正において、勤続年数5年以下の法人の役員等の退職所得については、この2分の1課税を廃止することとされました。(国税庁HP👈クリック) |
時代の変遷とともに終身雇用が見直されつつある中で、そもそも退職所得の計算方法は転職者にとっては不利な税制という見方があります。
一方では、退職所得の計算方法が根本的に見直されてしまうと、既に退職所得を前提とした給与体系に組み込まれている人たちには、想定外の不意打ちを食らう結果になります。それは、一般企業で働くサラリーマンだけでなく、国・地方の公務員も例外ではありません。
来年の税制改正で、勤続年数5年以下の一般社員の退職金については役員等の場合と同様に課税が強化されるのだと思いますが、退職所得の抜本的な見直しはもう少し先ではないでしょうか。
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【所得税】不動産所得の損益通算
不動産所得の損失は、原則として他の黒字の所得と損益通算できます。(所法69①)
ただし、不動産所得の場合の損失については次の点について留意が必要です。
■生活に通常必要でない資産から生じる損失は原則としてなかったものとされます。(所法69②、法令200)
したがって、別荘等のように主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産の貸付けに係るものの損失は損益通算の対象とはなりません。
■不動産所得の損失の額のうち、必要経費に算入した土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額は損益通算の対象とはなりません。(措法41の4)
土地の取得に要した借入金の額の計算 | 借入金額 ・・・5,000万円 建物の取得価額 ・・・ 3,000万円 5,000万円-3,000万円=2,000万円 ※まず、建物の取得の対価に充てられ、残額が土地の取得の対価に充てられたものとして計算します。 |
土地の取得に要した借入金の利子の額の計算 | 借入金の利子を100万円だとします。 100万円 × 2000万円 /5,000万円= 40万円 |
損益通算の対象とならない不動産所得の損失 | 不動産所得の損失が100万円だとします。 100万円 > 40万円 ∴40万円が損益通算の対象となりません。 |
不動産所得の損失が20万円だとします。 20万円 < 40万円 ∴20万円が損益通算の対象となりません。 |
これは、平成4年に導入された制度で、銀行借入れで不動産を取得し、不動産所得の赤字と給与所得などの他の所得と損益通算するという節税策を規制したもので、不動産バブルの頃の名残です。
■その他にあまり事例としては多くないと思いますが、下記のものがありますが、いずれも過度な節税策を着せしたものです。(措法41の4の2、国税庁HP👈クリック参照)
・不動産所得を生ずべき事業を行う民法組合等の特定組合員(個人組合員のうち、組合事業に係る重要な業務の執行の決定に関与し、かつ、契約を締結するための交渉等を自ら執行する組合員以外のもの)である個人が、組合事業から生じた不動産所得の損失については、損益通算の対象にもなりません。(財務省HP:平成17年度 税制改正の解説)
・特定受益者に該当する個人が、信託から生ずる不動産所得を有する場合において不動産所得の損失の金額があるときは、損益通算の対象とはなりません。(財務省HP:平成19年度 税制改正の解)
なお、国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例(第41条の4の3 )については、2021年(令和3年分)の国外不動産所得の損失からの適用となります。
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【所得税】事業を承継した相続人の所得税の届け出と期限
被相続人が事業を行っていた場合で、その相続人が事業を承継した場合は諸々の手続きが必要です。(なお、消費税については後日UPします。)
1.被相続人に関するもの
被相続人が行なっていた事業に関して、相続人は次の手続きをとらなければなりません。
国税庁HP | 期 限 |
個人事業の開業・廃業等届出書 | 死亡の日から1か月以内 |
所得税の青色申告の取りやめ届出書 | 翌年3月15日まで |
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | 死亡の日から1か月以内 |
2.事業を承継する相続人に関するもの
被相続人の事業を承継した相続人がとる手続きのうち、所得税に関するものは次のとおりです。
国税庁HP | 期 限 |
個人事業の開業・廃業等届出書 | 事業の開始した日から1月以内 |
所得税の青色申告承認申請書 | ・被相続人青色申告:相続人白色申告 →相続に関係なく翌年の3月15日まで |
・被相続人青色申告:相続人青色申告 →手続き不要 |
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・被相続人青色申告:相続人事業を営んでいなかった →下記※参照 |
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・被相続人白色申告:相続人白色申告 →相続に関係なく翌年の3月15日まで |
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・被相続人白色申告:相続人青色申告 →手続き不要 |
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・被相続人白色申告:相続人事業を営んでいなかった →亡くなった日に応じて次のとおり 1月1日から1月15日までに亡くなった場合・・・亡くなった年の3月15日まで 1月16日以降に亡くなった場・・・亡くなった日から2ヵ月以内 |
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青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書 | 1月1日から1月15日までに亡くなった場合・・・亡くなった年の3月15日まで 1月16日以降に亡くなった場合・・・亡くなった日から2ヵ月以内 |
※次の②又は③に該当する場合は期限に要注意です。
被相続人の準確定申告の期限(4ヶ月)よりも前に相続人は青色申告承認申請書を提出しなければならないケースがあります。
①その死亡の日がその年の1月1日から8月31日までの場合 | 死亡の日から4か月以内 |
②その死亡の日がその年の9月1日から10月31日までの場合 | その年の12月31日まで |
③その死亡の日がその年の11月1日から12月31日までの場合 | その年の翌年の2月15日まで |
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【所得税】未分割不動産の家賃の帰属
確定申告の必要がある人が年の途中で亡くなったっ場合は、相続人等は1月1日から死亡した日までに確定した所得金額及び税額を計算した準確定申告書を、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告し、納税をしなければなりません。
ただし、1月1日から確定申告期限(原則として翌年3月15日)までの間に確定申告書を提出しないで死亡した場合の準確定申告の期限は、前年分、本年分とも相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内となります。
例えば不動産所得のある方が、9月15日に亡くなり、遺産分割協議が翌年の4月30日に整ったとします。
この場合のこの不動産に係る不動産所得の計算の期間は次のようになります。
①亡くなった年の1月1日~9月15日まで期間 | 相続人等は亡くなった年の翌年の1月15日(4ヶ月以内)までに準確定申告をする。 |
②亡くなった年の9月16日~12月31日までの期間 | 共同相続人は、それぞれ法定相続分に応じて確定申告期限(亡くなった年の翌年3月15日)までに確定申告をする。 |
③亡くなった年の翌年の1月1日~4月29日までの期間 | 共同相続人は、それぞれ法定相続分に応じて確定申告期限(亡くなった年の翌々年3月15日)までに確定申告をする。 |
④亡くなった年の翌年の4月30日~12月31日までの期間 | 不動産を相続した相続人は、確定申告期限(亡くなった年の翌々年3月15日)までに確定申告をする。 |
民法では、遺産分割は相続の開始の時にさかのぼって効力を生ずるとする「遡及効」があるとされています(民法909)
遺産分割協議で不動産を相続する人が確定したのなら、亡くなってから不動産の帰属が確定するまでの間の家賃や経費は、その相続した人に帰属させるべきではないかという見方ができます。
遡及効があるのなら、亡くなった年の翌年の家賃や経費はもとより、亡くなった年の9月16日~12月31日までの期間についても、共同相続人は所得金額を是正するために修正申告や更正の請求をすべきということになります。
これについては、未分割財産に係る家賃などの法定果実は相続財産そのものではないから、遺産分割の遡及効果が及ぶものではない、とする最高裁判決があり、課税庁も同様の見解です。(国税庁HP👈クリック)
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【所得税】不動産所得の収入の計上時期
不動産賃貸契約書では、多くの場合翌月分の家賃は前月末日までの支払という取り決めのになっているのではないでしょうか。
そうすると、個人の大家さんの場合で、12月31日までに入金される家賃は翌年1月分の家賃となります。
この12月31日までに入金された家賃は今年の不動産所得の収入金額になるのでしょうか、それとも来年の収入金額になるのでしょうか。
所得税法では、次のように定めれれています。
36-5(不動産所得の総収入金額の収入すべき時期) (1)不動産所得の総収入金額の収入すべき時期は、別段の定めのある場合を除き、それぞれ次に掲げる日によるものとする。契約又は慣習により支払日が定められているものについてはその支払日、支払日が定められていないものについてはその支払を受けた日(請求があったときに支払うべきものとされているものについては、その請求の日) : |
したがって、たとえ来年1月分の家賃であっても、契約書で支払日が今年の12月31日までと定めていれば、原則として今年の家賃収入となります。
一定の要件がありますが、前受家賃や未収家賃として来年の家賃とする方法があります。
(国税庁HP👈クリック)
■不動産等の貸付けが事業として行なわれている場合
1.原則
その契約に定められている賃貸料の支払日の属する年分の収入金額に算入する。
2.例外
次のいずれにも該当するときは、その賃貸料にかかる貸付期間の経過に応じ収入金額に算入することができる。
①帳簿書類を備えて継続的に記帳し、その記帳に基づいて不動産所得の金額を計算していること。
②その者の不動産等の賃貸料※にかかる収入金額の全部について、継続的に前受収益および未収収益の経理が行なわれていること。
③その者の1年をこえる期間にかかる賃貸料収入については、その前受収益または未収収益についての明細書を確定申告書に添付していること。
※「不動産等の賃貸料」には、不動産等の貸付けに伴い一時に受ける頭金、権利金、名義書替料、更新料、礼金等は含まれない。
■不動産等の貸付けが事業(国税庁HP👈クリック)として行なわれていない場合
1.原則
その契約に定められている賃貸料の支払日の属する年分の収入金額に算入する。
2.例外
次のいずれにも該当するときは、その賃貸料にかかる貸付期間の経過に応じ収入金額に算入することができる。
①上記①に該当すること。
②その者の1年以内の期間にかかる不動産等の賃貸料の収入金額の全部について上記②に該当すること。
■小規模事業者の収入及び費用の帰属時期の特例
青色申告者で不動産所得又は事業所得を生ずべき事業を行うもののうち小規模事業者として次の要件に該当するものは、現金主義により所得金額を計算できます。(所法67、所令195)
① その年の前々年分の不動産所得の金額及び事業所得の金額(青色専従者給与又は事業専従者控除の規定を適用しないで計算した金額)の合計額が300万円以下であること
② すでにこの現金主義の適用を受け、その後適用を受けないこととなった者については、再びこの現金主義の規定の適用を受けることにつき納税地の所轄税務署長の承認を受けた者であること
なお、青色申告の承認申請とともにこの特例の適用を受けるための手続をする場合には、「所得税の青色申告承認申請書(兼)現金主義の所得計算による旨の届出書」(国税庁HP👈クリック)を、過去にこの特例を受けていた場合には、「再び現金主義による所得計算の特例の適用を受けることの承認申請書」(国税庁HP👈クリック)を提出しなければなりません。
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【所得税】医療費控除
国税庁のホームページ「新型コロナウイルス感染症に関連する税務上の取扱い関係」が10月23日付で更新されました。
そのうち、問8からが所得税関係ですが、問の12から3つほど所得税の確定申告絡みで、「医療費控除」について公表されています。
問12
マスク購入費用の医療費控除の適用について〔10月23日追加〕
私は、新型コロナウイルス感染症を予防するために、マスクを購入しましたが、この購入費用は、確定申告において医療費控除の対象となりますか。
⇒ マスクは、診療や治療該当しないため、医療費控除の対象となりません。
問12-2
PCR検査費用の医療費控除の適用について〔10月23日追加〕
私は、先日、新型コロナウイルス感染症のPCR検査を受けましたが、この検査費用は確定申告において医療費控除の対象となりますか。
⇒ 医師等の判断により受けたPCR検査の検査費用は、自己負担部分に限り、医療費控除の対象となります。
⇒ 自己の判断により受けたPCR検査の検査費用は、医療費控除の対象となりません。
問12-3
オンライン診療に係る諸費用の医療費控除の適用について〔10月23日追加〕
私が通院している医療機関では、新型コロナウイルス感染症の感染防止のため、オンライン診療を導入しています。
このオンライン診療においては、自宅から医師の治療が受けられるのはもちろん、診療により処方された医薬品については、医療機関から私が希望した薬局に処方箋情報が送付され、その薬局から自宅への配送もできる仕組みとなっています。
オンライン診療は大変便利ですが、この仕組みを利用するためには、以下のとおり、オンライン診療料に係る費用のほか、システムの利用料の支払が必要となりますが、これらの支出は医療費控除の対象となりますか。
⇒①オンライン診療料 ・・・ 医療費控除の対象となります。
⇒②オンラインシステム利用料 ・・・医療費控除の対象となります。
⇒③処方された医薬品の購入費用 ・・・ 医療費控除の対象となります。
⇒④処方された医薬品の配送料 ・・・ 医療費控除の対象となりません。
医療費とは、医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものと定められています。(所法73②)
マスクは病気の感染予防なので対象外、PCR検査費用は医師の診療なので対象、オンライン診療は文字通り診療なので対象(配送料を除く)ということになります。
コロナだからなんでもOK というわけにはいかないようです。
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【所得税】副業の確定申告
会社で働きながら社外に職を持つ「副業」が普及している。日本経済新聞社と日経HRの共同調査では副業を認める企業は3割に上り、会社員の7割以上が関心を持っているとわかった。社員が本業で生かす知見や人脈を培う機会になる。専門スキルや多様なアイデアを募る手段としても、副業の活用が企業で広がりつつある。
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日本経済新聞社と就職情報サービスなどを手掛ける日経HRが10月下旬に共同で実施した副業に関する調査で会社員4279人が回答。勤務先が副業を容認しているとの答えが28.1%に上った。74.7%の会社員が副業を探すなど関心を持っていることもわかった。(日経 2020/11/28)
コロナ前の話ですが、トヨタ自動車の豊田社長が「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた。」と発言されて話題になりました。
また、経団連の中西宏明会長も、「企業は従業員を一生雇い続ける保証書を持っているわけではない」とも発言しています。
企業の建前としては、「優秀な人材を留めるため」とか「社員のスキルアップ」とか副業解禁の理由をいろいろ掲げていますが、本音は豊田社長や中西宏明会長の発言にあるのではないでしょうか。
企業に勤務しながら副業を持つと給与以外の所得が生じます。
その副業の収入から経費を差し引いた所得の金額が20万円を超えると確定申告をしなければなりません。(国税庁HP👈クリック)
そこで悩むのがその副業収入が「事業所得」なのか、「雑所得」なのかです。事業所得ならば、事業から赤字が出た場合は給与所得等との損益通算できたり、青色申告特別控除ができたりと、税金計算で何かと有利になります。
事業所得 | 農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得をいいます。(国税庁HP👈クリック) |
雑所得 | 利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも当たらない所得をいい、例えば、公的年金等、非営業用貸金の利子、副業に係る所得(原稿料やシェアリングエコノミーに係る所得など)が該当します。(国税庁HP👈クリック) |
事業所得と雑所得の区分については一般的には下記の点などを総合的にみて判断するとされています。
・自己の危険と計算において独立して行う業務か
・営利性と有償性を有しているか
・反復継続して遂行されて営まれているか
・社会的地位が客観的に認められているか 等など
会社に勤務しながら副業として働くといった場合、仕事の軸足が勤務にあると思います。このような場合、多くの副業は雑所得になるではないかと思います。
ただし、例えば配達の仕事反復・継続して生活をしているが、空いた時間でパート・アルバイトをしているような場合は、配達の仕事は事業所得でパート・アルバイトは給与所得としても差し支えないと思います。
執筆及び講演等の業務から生じる所得を事業所得として申告したところ、否認された下記の裁決例があります。(国税不服審判所👈クリック)
本件は、大学の准教授である審査請求人(以下「請求人」という。)が執筆及び講演等の業務から生じる所得を事業所得として申告したところ、原処分庁が、当該所得は雑所得に該当し、また、請求人が事業所得の金額の計算上必要経費に算入した費用のほとんどが家事関連費等に該当して必要経費に算入できないとして所得税の各更正処分等を行ったのに対し、請求人が、著述業を行う目的を持ち、その目的を達成する意思で執筆及び講演等を行っていたのであるから当該業務は事業に該当し、また、請求人の主張する費用はいずれも当該業務の遂行上必要な費用であるから必要経費に算入することができ、さらに、原処分に係る調査の手続には違法があり、原処分庁が提示した更正の理由には不備があるとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。 |
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【所得税】(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)59-6
国税庁から非上場株式のみなし譲渡課税に係る時価の算定方法を定めた、 所得税基本通達59-6 の改正通達の趣旨説明が公表されました。(資産課税課情報第22号 国税庁HP👈クリック)
この通達の改正の背景は、最高裁まで争われ最終的に国が勝った税務訴訟の判決において、裁判官の補足意見があり「分かりやすさという観点から改善されることが望ましい」と指摘されたためです。したがって、国の従来からの取扱を変えたわけではなく、誤解のないように通達を改めたということです。
非上場株式のことを税法では取引相場のない株式といいますが、そもそも取引がない株式の時価などあるのかと、いった問題があります。
それはさておき、この非上場株式も財産なので相続税の課税の対象になります。その際の評価方法が、財産評価基本通達(国税庁HP 👈クリック)に定められています。
所得税法では法人に贈与したり、著しく低い価額の対価で譲渡した場合には時価で譲渡したものとみなされる取扱になっています。(国税庁HP 👈クリック)
非上場株式を法人に贈与等した場合にもこの規定の取扱があります。
その場合の非上場株式の時価の算定について、相続で使う財この産評価基本通達を利用しようというのが、所得税基本通達59-6というの通達です。
上記税務訴訟で争われたの内容そのものは、ほとんどの税理士は国側の取扱をしていたので実務に影響はないと思われます。
注目する点は、この通達における非上場株式の評価方法について、かねてより税理士などの専門家の間で議論があった次の疑問点を、この通達改正の趣旨説明で明らかにされたことです。
【疑問】類似業種比準価額を算出する計算において類似業種の株価等に乗ずるしんしゃく割合は、実際の会社規模に応じた割合(0.7)にするのか、小会社としての割合(0.5)にするのか。 |
【回答】評価会社の株式の価額を評基通179の例により算定するときは「小会社」とするが、評基通180のしんしゃく割合は評価会社の会社規模に応じたものとする。 |
【疑問】評価会社が子会社にとって「中心的な同族株主」に該当する場合にも、その子会社株式の価額は「財産評価基本通達178に定める『小会社』に該当するものとして」同通達179の例により算定することが相当ではないか。 |
【回答】評価会社が有する子会社株式の価額を算定する場合においても、子会社が「小会社」に該当するものとして「純資産価額方式」又は「類似業種比準方式と純資産価額方式との併用方式(Lを0.5として計算)」による価額とすることが相当である。 |
【疑問】子会社株式を評価する場合の「1株当たりの純資産価額」の計算に当たって、その子会社が有する土地及び上場株式についても、評価会社の株式の譲渡等の時における価額(≠相続税評価額)により当該子会社株式の評価をするのが相当ではないか。 |
【回答】評価会社が有する子会社株式を「純資産価額方式」で評価する場合において、子会社が有する土地及び上場株式も譲渡等の時における価額(≠相続税評価額)によるのが相当である。 |
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【コラム】適用額の制限が見直し
税金の申告にあたって、納税者にとって有利になる制度の適用を受けるための意思表示を、当初の申告(期限内申告、期限後申告)において行われなければならないものがあります。これを「当初申告要件」といいます。
この当初申告要件の多くは、平成23年の12月の税制改正において廃止されましたが、併せて控除額の制限※も廃止されています。
※益金不算入額や損金算入額,税額控除額を当初申告である確定申告書等に記載された金額を限度とすることをいいます。
主なものは次のとおりです。
・ | 受取配当等の益金不算入 | 法法23⑧ |
・ | 国等に対する寄附金、指定寄附金及び特定公益増進法人に対する寄附金の損金算入 | 法法37⑨ |
・ | 所得税額控除 | 法法68④ |
例えば所得税額控除は、改正前と改正後では次のようになっています。
改 正 前 | 改 正 後 |
③第1項(注:所得税額控除)の規定は、確定申告書に同項の規定による控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載がある場合に限り、適用する。この場合において、同項の規定による控除をされるべき金額は、当該金額として記載された金額を限度とする。 | ④第1項(注:所得税額控除)の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に同項の規定による控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。この場合において、同項の規定による控除をされるべき金額は、当該金額として記載された金額を限度とする。 |
当初申告要件の廃止は,交際費を除き基本的に法人税法上の制度に限られています。
一方、租税特別措置法では適用額の制限が見直がなされ、一定の緩和がされています。
例えば、試験研究を行った場合の法人税額の特別控除( 措法42の4 )では次のようになりました。
⑩・・・、確定申告書等(これらの規定により控除を受ける金額を増加させる修正申告書又は更正請求書を提出する場合には、当該修正申告書又は更正請求書を含む。)にこれらの規定による控除の対象となる試験研究費の額又は特別試験研究費の額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。この場合において、これらの規定により控除される金額の計算の基礎となる試験研究費の額又は特別試験研究費の額は、確定申告書等に添付された書類に記載された試験研究費の額又は特別試験研究費の額を限度とする。 |
つまり、税務調査等で追加の法人税額が生じた場合に連動して控除限度額(例えば、法人税額の20%)が増えたような場合には、修正申告や更正の請求により控除額の増加を認めるというものです。
それ以外の、例えば調査の過程で試験研究の額が増加したとしても、確定申告書等に添付された書類に記載された試験研究費の額をベースに計算されるので控除額が増加することはありません。また、当初申告で試験研究費の額などの添付書類がない場合には適用はないことになります。
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【コラム】当初申告要件が存置した規定
税金の申告にあたって、納税者にとって有利になる制度の適用を受けるための意思表示を、当初の申告(期限内申告、期限後申告)において行われなければならないものがあります。これを「当初申告要件」といいます。
この当初申告要件の多くは、平成23年の12月の税制改正において廃止されましたが、そのまま残った規定もあります。
主な規定は次のとおりです。
・ | 小規模宅地等の特例(相続税関係) | 措法69条の4⑦ | |
・ | 相続時精算課税制度(相続税関係) | 相法21条の9② | |
・ | 居住用財産の譲渡の3,000万円の特別控除(所得税関係) | 措法35⑪ | |
・ | 住宅借入金等特別控除(所得税関係) | 措法41㉛ | |
・ | 研究開発税制(法人税関係、所得税関係) | 措法42条の4⑩他 | |
・ | 所得拡大税制(法人税関係、所得税関係) | 措法42条の12の5⑤他 |
例えば、小規模宅地等の特例を見てみると次のような規定になっています。
⑦ ・・・相続税法第27条(注:期限内申告書)・・・の規定による申告書(これらの申告書に係る期限後申告書及びこれらの申告書に係る修正申告書を含む。・・・)に第1項の規定(注:小規模宅地等の特例)の適用を受けようとする旨を記載し、同項の規定による計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。 |
これにより、小規模宅地等の特例は、当初申告(期限内申告書、期限後申告書)において認めれるということになります。
なお、これらの申告書に係る修正申告書ですが、稀なケースかも知れませんが例えば、当初申告で小規模宅地等の申告が漏れていて、税務調査で修正申告が必要になったような場合などが考えられます。
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