Archive for the ‘所得税’ Category
【所得税】建物の減価償却費
減価償却資産の償却方法については、過去に大きな改正がいくつかありました。
平成10年3月31日以前に取得した建物は定額法又は定率法のいいずれかを選択することができましたが、平成10年4月1日以後に取得した建物の償却方法は、定額法のみとなりました。
次いで、平成19年3月31日以前に取得した減価償却資産の定額法や定率法のことを「旧定額法」や「旧定率法」とし、平成19年4月1日以後に取得する減価償却資産の償却方法のことを「定額法」や「定率法」とすることとし、減価償却費の計算の方法そのものが変わりました。
さらに、平成28年3月31日以前に取得した建物附属設備及び構築物は定額法又は定率法のいずれかを選択することができましたが、平成28年4月1日以後に取得した建物附属設備及び構築物の償却方法は定額法のみとなりました。
なお、これらの場合の取得には、購入や自己の建設によるもののほか、相続、遺贈又は贈与によるものも含まれますので注意が必要です。
-建物の償却方法について-
賃貸建物の場合、賃貸している期間が30年を超える物件も珍しくありません。減価償却の方法は取得時期によって異なりますので、前年の数字を単に繰り越すのではなく、改めて物件の取得時期を確認し償却方法の確認をしてみるのもよいかも知れません。
取 得 | 償却方法 | 法定償却方法 | |
平成10年3月31日以前 | 旧定額法 | 旧定率法 | 旧定率法 |
平成10年4月1日 ∫ 平成19年3月31日 |
旧定額法 | × | - |
平成19年4月1日以降 | 定額法 | × | - |
-旧定額法の計算方法-
旧定額法の償却限度額= (取得価額 - 取得価額×10%) × 旧定額法の償却率
平成20年分からは、取得価額の95%相当額まで償却した年分の翌年分以後は、期首帳簿価額から1円を控除した金額を5で除した金額が償却費の額となります。
詳しくは国税庁HPをご参照下さい。
-定額法の計算方法-
定額法の償却限度額=取得価額×定額法の償却率
なお、この場合は備忘価額1円まで償却されます。
詳しくは国税庁HPをご参照下さい。
【所得税】不動産所得の場合の修繕費
賃貸不動産を修繕した場合、その支出した金額のうち使用可能期間を延長させたり、その価値を高めたりした部分の金額があるときは、資本的支出となり修繕費として必要経費になりません。その区分はおおむねつぎのようになります。
支出の内容 | 資産・必要経費の区分 |
・使用可能期間の延長 ・価値の増加 |
・資本的支出として減価償却の対象 (例) 建物の避難階段の取付けなど、物理的に付け加えた部分の金額 用途変更のための模様替えなど、改造や改装に直接要した金額 |
・維持管理費用 ・原状回復費用 |
・修繕費として必要経費 |
・壊れた部分の取り替え | ・取り替えたものは減価償却資産として減価償却の対象 ・除却したものは除却損として必要経費 |
ただし、これでは判断しかねる場合が多く、実務的にはつぎの取扱いが認められています。
-修繕費が20万円未満、3年以内周期の場合-
一つの修理や改良などの金額が20万円未満の場合 | 全額修繕費 |
一つのおおむね3年以内の期間を周期として行われる修理、改良 |
-修繕費が20万円以上で資本的支出か明らかでない場合-
イ.その支出した金額が60万円未満のとき ロ.その支出した金額が前年度終了の時における取得価額のおおむね10%相当額以下 |
イ.ロ.いずれかに該当すれば全額修繕費 |
イ.その支出した金額の30%相当額 ロ.前年終了の時における取得価額の10%相当額 |
継続してイ.ロ.いずれか少ない金額を修繕費とし、残額を資本的支出としていればOK |
詳しくは国税庁HPをご参照下さい。
-アパートの修繕の具体例-
①入居者の退去に伴って壁紙を貼り替えた費用・・・20万円(家主負担部分)
②給湯器が旧式のため除却して最新のものに交換した・・・12万円
③外壁と鉄部の再塗装費用(塗料は従前と同等のもの)・・・300万円
④空いてる部屋を和室から洋室に変更・・・100万円
⑤旧くなった窓枠をスチールサッシからアルミサッシに変更・・・200万円
(建物の取得価額5,000万円)
①原状回復費用であるため20万円は修繕費
②給湯器2万円<20万円 であるため12万円は修繕費
③原状回復費用であるため300万円は修繕費
④明らかに価値を高めるものとして100万円は資本的支出
⑤原状回復費用と資本的支出が混在していると認められる
200万円×30%=60万円 < 5,000万円×10%=500万円
継続処理を前提として60万円は修繕費、140万円は資本的支出
【所得税】不動産所得の減価償却費
不動産所得の業務の用に供されるつぎの資産は、通常時の経過によってその価値が減少しますので、減価償却資産※といいます。
・建物・・・木造、木造モルタル造、コンクリート造り、鉄筋コンクリート造りなど
・建物附属設備・・・電気設備、給排水・衛生設備、ガス設備、エレベータなど
・構築物・・・塀、外構など
・器具備品・・・冷暖房設備、電気冷蔵庫、カーテン、家具等
・その他
※建物や駐車場の敷地である土地等や書画・骨とう品などの類は、原則として時の経過により価値が減少しない資産なので、減価償却資産とはいいません。
減価償却資産の取得費は、その取得時に全額不動産所得の必要経費となるのではなく、その資産の使用可能期間に分割して必要経費としていきます。この使用可能期間に当たるものとして法定耐用年数があらかじめ定められていて、一定の計算に従って減価償却費を計算します。
ところで、その使用可能期間が1年未満のものや取得価額が少額なものについては、つぎのような特例などがあります。
・使用可能期間が1年未満のもの又は取得価額が10万円未満のものは、全額をその業務の用に供した年分の必要経費とします(選択ではなく強制)。
・取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産については、その取得価額の合計額の3分の1に相当する金額をその業務の用に供した年以後3年間の各年分において必要経費に算入することができます。詳しくは国税庁HPをご参照下さい。
・青色申告者の場合、取得価額10万円以上30万円未満の減価償却資産で、取得価額の合計額のうち300万円に達するまでの取得価額の合計額をその業務の用に供した年分の必要経費に算入できるという特例があります。詳しくは国税庁HPをご参照下さい。なお、この特例を使った場合、地方税である償却資産税の申告対象になりますのでご注意下さい。
取得価額の判定にあたっては、消費税の額を含めるかどうかは納税者の経理方式によります。税込経理であれば消費税を含んだ金額で、税抜経理であれば消費税を含まない金額で判定します。免税事業者の経理方式は税込経理です。
【所得税】敷金償却、敷引き特約の収入計上時期
賃貸住宅を借りるとき、おおむね関東では敷金、関西では保証金という名目で家賃の数ヶ月分を大家さんに支払います。いずれも部屋を借りた人が家賃の滞納したときに備えて、あるいは退去時の原状回復費用に充てるために大家さんが担保として預かっておく性格のものです。地域によって呼び方が異なりますが、その趣旨は同じで、家賃滞納や退去時に部屋の修繕費が発生しなかった場合は、原則として退去するときに返還される性格のものです。
しかしこの敷金や保証金につていは、敷金は「敷金償却」、保証金は「敷引き」として、その一定金額を賃借人に返還しなくてもよいとする特約がついていることが多いようです。
第8条 賃貸人は、賃借人使用居室に損害なく明け渡しの完了を認めたる時は、契約当時受領した敷金を賃借人に返却するものとする。
第9条 賃貸借契約を終了する場合(前条に該当する場合を除く)又は賃借人の都合により賃貸借契約を解除する場合は、賃貸人は、敷金のうち20%に相当する金額は、賃借人に対し返還を要しないものとする。
第8条は、一旦賃借人に部屋を貸したからには、明け渡し時に全く部屋に損害が発生しないということは非現実的な条項なので、事実上第9条が適用されると考えられます。
所得税法では、その年において「収入金額とすべき金額」は収入に計上しなければならない(権利確定主義)として、権利が確定した時に収入に計上することとされています。したがって、不動産所得の計算において、この返還を要しない敷金や保証金の収入計上時期は、その返還を要しないことが確定した年分の不動産所得の収入金額に計上します。
上記の例では敷金の20%はその契約をした日の属する年分の収入金額に計上することになります。
さらに、例えば償却について、つぎのようになっている場合はどうなるでしょうか。
第15条 入居から1年以内に解約する場合には保証金の60%を返還し、入居から1年を超え3年以内に解約する場合には保証金の40%を返還し、入居から3年を超え5年以内に解約する場合には保証金の20%%返還する。入居から5年を超えて解約する場合には保証金の全額を返還しない。
このような場合は、保証金の返還しないことが確定した日の属する年分で収入金額に計上します。
具体的には、契約時において40%返還されないことが確定しているので、契約の日の属する年分で40%償却して収入金額に計上します。次に1年経過時にさらに追加で20%(60%-償却済み40%)、さらに3年経過時に追加で20%{80%-償却済み(40%+20%)}返還しないことが確定してたので収入金額に計上します。5年を超えた時に残り全額20%{100%-償却済み(40%+20%+20%))}が償却の対象となります。
【所得税】翌年分の前受け家賃の扱い
建物の賃貸借契約書の中の賃料の支払いの条項では、つぎのような文章になっているケースを見受けます。
第〇条(賃料の支払等)
1 乙(賃借人)は、翌月分の賃料及び共益費を毎月〇日限り、甲(賃貸人)の指定する口座に振り込んで支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。
2 ・・・
-原則的取扱い-
貸主は建物を使用させる義務は負いますが、翌月の賃料を当月に受け取る前受家賃については、原則として受け取った家賃は契約を解除する場合を除き、返還する義務はありません。
この前受家賃について所得税法では、その年において「収入金額とすべき金額」は収入に計上しなければならない(権利確定主義)として、権利が確定した時に収入に計上することとされています。
例えば、平成29年1月分の家賃を平成28年12月25日に受け取ることになっていたとしたら、たとえ29年分の家賃だとしても28年の所得金額の収入金額に計上しなければなりません。
もっとも賃貸借契約の継続期間中は結果的にさほど問題になりませんが、賃貸借を開始した年などは注意が必要です。
-事業的規模の場合-
不動産等の貸付けを事業的規模で行なっている場合で、つぎのいずれにも該当するときは、その賃貸料にかかる貸付期間の経過に応じ、その年中の貸付期間に対応する部分の賃貸料の額をその年分の不動産所得の収入金額に算入すべき金額とすることができます。
イ.不動産所得を生ずべき業務にかかる取引について、その者が帳簿書類を備えて継続的に記帳し、その記帳に基づいて不動産所得の金額を計算していること。
ロ.不動産等の賃貸料にかかる収入金額の全部について、継続的にその年中の貸付期間に対応する部分の金額をその年分の総収入金額に算入する方法により所得金額を計算しており、かつ、前受収益および未収収益の経理が行なわれていること
ハ.1年をこえる期間にかかる賃貸料収入については、その前受収益または未収収益についての明細書を確定申告書に添付していること。
-業務的規模の場合-
不動産等の貸付けを事業的規模で行なっていない場合であつても、上記イ.に該当し、かつ、その者の1年以内の期間にかかる不動産等の賃貸料の収入金額の全部について上記ロ.に該当するときは、その者の1年以内の期間にかかる不動産等の賃貸料の収入金額については、上記のように取り扱ってもよいとされています。
【所得税】5棟10室基準の応用
-5棟10室基準-
不動産の貸付けが事業として行われているかどうかによって、賃貸建物の取り壊した場合などの資産損失、賃貸料の貸倒損失、業専従者給与又は白色申告の事業専従者控除、青色申告特別控除の65万円控除などにおいて、不動産所得の計算が異なってきます。
事業として行われているかどうかについては、原則として社会通念上で判断するとされていますが、実務上つぎの場合は事業として扱ってよいことになっています。
・貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること。
・独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。
-一棟貸しの場合-
10室以上あるアパートを家賃保証で管理会社に一棟貸ししたような場合、上記5棟10室基準の5棟の要件を満たしていないため、事業的規模に該当しないことになるでしょうか。
この場合は、あくまでも部屋数が10室あるので5棟10室基準の10室の要件を満たしているので、事業的規模として扱ってよいようです。
-土地の貸付の場合-
建物だけでなく土地の貸付も不動産所得になります。祖先が地域の大地主だったなどの場合、広大な宅地を他人が家を建てるために貸し付けているケースをときどき見かけます。このような土地の貸付の場合、事業的規模か否かの判定はどのようになるのでしょうか。
この場合も、5棟10室基準で判定するようです。その地域の実情・個々の実態等を考慮したうえで、1室の貸付けに相当する土地の貸付件数をおおむね5としてよいようです。あくまでも社会通念上で判断するのが原則ですが、これにしたがい単純計算すると50件の貸付件数があれば10室に相当するので、5棟10室基準を満たし、事業的規模ということになります。
例えば、アパートの貸室が5室、不動産の貸付件数が25件だと、不動産の貸付が5室分になり貸室が10室相当になるので、5棟10室基準を満たしていることになります。
【所得税】共有不動産の事業的規模の判定
-5棟10室基準-
不動産の貸付けが事業として行われているか業務として行われているかによって、不動産所得の計算が異なる場合があります。
事業として行われているかどうかについては、原則として社会通念上で判断するとされていますが、実務上つぎの場合は事業として扱ってよいことになっています。
・貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること。
・独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。
-事業的規模と業務的規模の所得税の取扱いの違い-
いわゆる5棟10室基準と呼ばれているものですが、不動産の貸付が事業的規模なのか業務的規模なのかによって、つぎのような違いがあります。
・賃貸用不動産の取壊し、除却などの資産損失については、不動産貸付けが事業的規模の場合その全額を必要経費に算入することができます。その結果不動産所得が赤字になれば他の所得と損益通算することができます。一方、業務的規模の場合はその年分の資産損失を差し引く前の不動産所得の金額を限度として必要経費に算入されます。つまり赤字部分は切り捨てになってしまいます。
・賃貸料が貸倒れになった場合、不動産貸付けが事業的規模だと回収不能となった年分の必要経費に算入することができます。一方、業務的規模の場合は賃貸料を収入に計上した年分までさかのぼって、その回収不能に対応する所得がなかったものとして、所得金額の計算をやり直すことになります。
・青色申告の事業専従者給与又は白色申告の事業専従者控除については、不動産貸付けが事業的規模の場合に限られ、業務的規模の場合はその適用がありません。
・青色申告特別控除については、不動産貸付けが事業的規模の場合で一定の要件を満たせば最高65万円が控除を適用できますが、業務的規模の場合は最高10万円までとなります。
-共有の場合-
5棟10室基準について、不動産を共有している場合の判定をどうするのかということがあります。例えば、2DKで部屋数が14室の賃貸アパートを親から姉妹が2分の1ずつの共有で相続したような場合、14室÷2人=7室/1人なので業務的規模なのか、共有とはいえそれぞれが14室をもっていると考え事業的規模とみるのか迷います。この場合は、それぞれが14室を持っていると考え、姉妹ともに事業的規模となります。
【所得税】上場株式等の譲渡と配当:社会保険料への影響
上場株式等の配当等や源泉有りの特定口座での上場株式等の譲渡益は税金が源泉徴収されているので申告不要です。
しかし、つぎのような場合はあえて申告することがあります。
・上場株式等の配当等を総合課税により申告して配当等の源泉税の還付を受ける。
・上場株式等の配当等を申告分離により申告して上場株式の譲渡損失と損益通算する。
・源泉有りの特定口座での上場株式等の譲渡益と譲渡損失を通算するために申告する。
・上場株式等の譲渡損失を繰り越すために申告する。
・前年以前の上場株式等の譲渡損失の繰り越し控除と上場株式等の配当等を損益通算するために申告をする。
・前年以前の上場株式等の譲渡損失の繰り越し控除と源泉有りの特定口座における上場株式等の譲渡益を通算するために申告をする、など。
税金だけをみれば、あえて申告することにより税負担が軽減されたり、還付をうけることができ得することになります。
申告不要を選択した場合は、合計所得などの所得や収入金額に影響を及ぼしません。しかし、あえて申告したため所得が増えたり、収入が増えると社会保険に影響を及ぼすことがありますので注意が必要です。
例えば、75歳以上の後期高齢者で住民税の課税所得金額が145万円未満の方は、病院などの窓口負担割合は1割です。上場株式等の配当等は課税総所得金額が695万円以下なら確定申告をした方が税金は有利になるのですが、上場株式等をあえて申告したため住民税の課税所得金額が145万円を超えてしまうと窓口医負担割合が現役並所得として原則3割(注)になってしまいます。病気を全くしないのならよいのですが、高齢者になると必ずしもそうとはいえないでしょうから結果として損をしてしまうことがあります。
(注)
現役並み所得の世帯として3割に該当しても、収入金額がつぎのいずれかの条件を満たす場合は住所地の区市町村に申請をすれば3割から1割に変更となります。
・後期高齢者医療制度の被保険者が1人の場合
前年(1月から7月は前々年)の収入額か383万円未満(ただし、被保険者単身世帯で被保険者1人の収入額が383万円を超える方でも、被保険者と同じ世帯内の70歳から74歳までの他の健康保険に加入する方がいる場合は世帯全員の収入合計額が520万円未満。)
・後期高齢者医療制度の被保険者が2人以上いる場合
前年(1月から7月は前々年)の収入合計額が520万円未満
上場株式等の配当所得等や源泉有りの特定口座における上場株式等の譲渡所得等について申告不要を選択した場合でも、国民健康保険の保険料や介護保険料などの所得を基に算定するものは影響がある場合があります。保険料の料率等は地域によってことなりますので、もよりの区市町村役場や加入している健康保険組合などへお問い合わせください。
【所得税】上場株式等の譲渡と配当:配偶者控除が受けられなくなる事例②
<<上場株式等の譲渡損失の繰り越しを適用したために損をした事例>>
-X年分-
専業主婦である妻は、亡くなった父から上場株式の相続をしました。上場株式の配当金は40万円、源泉徴収された税額81,260円(所得税・復興特別所得税61,260円、住民税20,000円)を受け取りました。また、この年父から相続した株式を100万円で譲渡しました。この譲渡した株式の父の取得価額は300万円でした。そこで上場株式の配当金40万円は申告分離課税を選択して、上場株式等の譲渡損失と損益通算することにより配当所得の源泉税額81,260円の還付を受けました。なお、妻は夫の配偶者控除を受けるつもりです。
イ.妻の合計所得(注)の金額
配当所得の金額:40万円
上場株式等の譲渡損失の金額:収入金額100万円-取得価額等300万円=△200万円
(相続した株式は被相続人の取得価額を引き継ぎます。)
損益通算:40万円-200万円=△160万円
合計所得金額は上場株式等の配当所得の金額と上場株式の譲渡損失の金額との損益通算後の金額:△160万円
ロ.夫の配偶者控除の判定
妻の合計所得金額△160万円 < 38万円 ∴夫の控除対象配偶者となる。
(注)合計所得とは、つぎの①と②の合計額に、退職所得金額、山林所得金額を加算した金額です。また、申告分離課税の所得がある場合には、それらの所得金額(不動産の譲渡所得がある場合は特別控除前の金額)の合計額を加算した金額です。
① 事業所得、不動産所得、給与所得、総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得及び雑所得の合計額(損益通算後の金額)
② 総合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後の金額)の2分の1の金額
ただし、つぎの繰越控除を受けている場合は、その適用前の金額をいいます。
・純損失や雑損失の繰越控除
・居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除
・特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除
・上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除
・特定中小会社が発行した株式に係る譲渡損失の繰越控除
・ 先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除
-X+1年-
専業主婦である妻は、この年も上場株式の配当金は40万円、源泉徴収された税額81,260円(所得税・復興特別所得税61,260円、住民税20,000円)を受け取りました。昨年から繰り越された上場株式等に係る繰越損失△160万円があるので、上場株式の配当金40万円は申告分離課税を選択して、繰り越し控除された上場株式等の譲渡損失と通算することにより配当所得の源泉税額81,260円の還付を受けました。
イ.妻の合計所得(注)の金額
配当所得の金額:40万円
上場株式等の譲渡損失の繰り越し控除適用後の金額:40万円-160万円=△120万円
合計所得は上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除適用前の金額:40万円
ロ.夫の配偶者控除の判定
妻の合計所得金額40万円 < 38万円 ∴夫の控除対象配偶者とはなれない。
【所得税】上場株式等の譲渡と配当:配偶者控除が受けられなくなる事例①
<<配当所得を申告して還付を受けたために損をした事例>>
専業主婦である妻は、亡くなった父から上場株式の相続をしました。上場株式の配当は40万円、源泉徴収された税額81,260円(所得税・復興特別所得税61,260円、住民税20,000円)でした。妻は他に所得がないので基礎控除(所得税38万円、住民税33万円)と配当控除(注1)を適用して源泉徴収税額の全額の還付を受けました。なお、夫の所得税の限界税率(注2)40%です。
(注1)配当控除とは、課税総所得が1,000万円以下の場合は、所得税については配当所得の10%、住民税については配当所得の2.8%が税額控除されます。
(注2)限界税率とは、所得税は課税所得金額に応じて5%~45%までの累進税率になっていますが、その適用される一番高い税率をいいます。
イ.妻の税額計算
(所得税)
・課税総所得金額:配当所得40万円-基礎控除38万円=2万円
・所得税額:2万円×5%=1,000円
・配当控除額:40万円×5%=20,000円 20,000円 > 1,000円 ∴1,000
・差引所得税額:1,000円-1,000円=0円
・源泉徴収税額の還付:0円-61,260円=△61,260円(還付)
(住民税)
・課税総所得金額:配当所得40万円-基礎控除33万円=7万円
・住民税額:7万円×10%=7,000円
・配当控除額:40万円×2.8%=11,200円 11,200円 > 7,000円 ∴7,000
・差引所得税額:7,000円-7,000円=0円
・源泉徴収税額の還付:0円-20,000円=△20,000円(還付)
ロ.夫の増加税額
・妻配偶者控除の判定:妻の合計所得金額40万円 > 38万円 ∴妻は控除対象配偶者に該当しない。
(所得税)
・増加額:配偶者控除の額38万円×夫の限界税率40%=152、000円
(住民税)
・増加額:配偶者控除の額33万円×住民税率10%=33,000円
-結論-
妻は確定申告したことにより、配当所得にかかる源泉税81,260円(所得税61,260円+住民税20,000円)の還付を受けることができましたが、一方夫は妻を控除対象配偶者とすることができなくなったため、税金が185,000円(所得税152、000円+住民税33,000円)増加したため、世帯としては103,740円(185,000円-81,260円)税金が増えてしまいました。
« Older Entries Newer Entries »