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【所得税】医療費控除

2020-11-05

国税庁のホームページ「新型コロナウイルス感染症に関連する税務上の取扱い関係」が10月23日付で更新されました。

そのうち、問8からが所得税関係ですが、問の12から3つほど所得税の確定申告絡みで、「医療費控除」について公表されています。


問12
マスク購入費用の医療費控除の適用について〔10月23日追加〕
私は、新型コロナウイルス感染症を予防するために、マスクを購入しましたが、この購入費用は、確定申告において医療費控除の対象となりますか。

⇒ マスクは、診療や治療該当しないため、医療費控除の対象となりません。

問12-2
PCR検査費用の医療費控除の適用について〔10月23日追加〕
私は、先日、新型コロナウイルス感染症のPCR検査を受けましたが、この検査費用は確定申告において医療費控除の対象となりますか。

⇒ 医師等の判断により受けたPCR検査の検査費用は、自己負担部分に限り、医療費控除の対象となります。
⇒ 自己の判断により受けたPCR検査の検査費用は、医療費控除の対象となりません。

問12-3
オンライン診療に係る諸費用の医療費控除の適用について〔10月23日追加〕
私が通院している医療機関では、新型コロナウイルス感染症の感染防止のため、オンライン診療を導入しています。
このオンライン診療においては、自宅から医師の治療が受けられるのはもちろん、診療により処方された医薬品については、医療機関から私が希望した薬局に処方箋情報が送付され、その薬局から自宅への配送もできる仕組みとなっています。
オンライン診療は大変便利ですが、この仕組みを利用するためには、以下のとおり、オンライン診療料に係る費用のほか、システムの利用料の支払が必要となりますが、これらの支出は医療費控除の対象となりますか。
①オンライン診療料 ・・・ 医療費控除の対象となります。
②オンラインシステム利用料 ・・・医療費控除の対象となります。
③処方された医薬品の購入費用 ・・・ 医療費控除の対象となります。
④処方された医薬品の配送料 ・・・ 医療費控除の対象となりません。


医療費とは、医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものと定められています。(所法73②)

マスクは病気の感染予防なので対象外、PCR検査費用は医師の診療なので対象、オンライン診療は文字通り診療なので対象(配送料を除く)ということになります。
コロナだからなんでもOK というわけにはいかないようです。

 

∞∞ 吉岡 ∞∞

【相続税】小規模宅地等の継続保有要件

2020-11-04

相続税の課税価格の算定にあたって、被相続人等(被相続人と生計を一にしていた親族を含む)の居住の用又は事業の用に供されていた宅地等については小規模宅地等の減額の特例の適用があります。その概要は下記のとおりです。(詳しくは国税庁HPをご参照ください)

利 用 区 分 項   目 面積 減額
被相続人等の居住の用に供されていた宅地等 特定居住用宅地等
■配偶者が相続等
■同居親族が相続等
■家なき子が相続等
■生計一親族が相続等
330㎡ 80%
被相続人等の事業の用に供されていた宅地等 貸付事業以外の事業用の宅地等 特定事業用宅地等 400㎡ 80%
貸付事業用の宅地等 特定同族会社事業用宅地等 400㎡ 80%
貸付事業用宅地等 200㎡ 50%

この小規模宅地等の減額の特例の適用を受けるためには、それぞれについて要件が定められています。

この要件の中に、相続開始時から相続税の申告期限までこの特例の適用を受けた宅地等を引き続き保有していなければならない(保有継続要件)というのがあります。

そもそもこの制度の趣旨は、被相続人からの相続又は遺贈により取得した宅地等で相続人等の生活基盤となるものについては一定の配慮をするというものです。

この趣旨に照らせば、相続後直ちに売却できるような宅地等にまで配慮をする必要がないことになります。

ではいつまで保有し続ければよいのかということですが、相続後の家庭環境の変化があり得ることや課税庁での確認の限界から、おそらく一種の割り切りとして申告期限(相続開始後10ヶ月)までとしたのだろうと思います。


ただし、配偶者についてはこの保有継続要件がありません。
例えば、階段のある戸建住宅は大変なのでエレベータがあるマンションに移りたい、あるいは老人向けの施設に入りたいといった場合、配偶者は申告期限まで待たずに居住用宅地を売却することができます。

 

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【所得税】副業の確定申告

2020-11-04

会社で働きながら社外に職を持つ「副業」が普及している。日本経済新聞社と日経HRの共同調査では副業を認める企業は3割に上り、会社員の7割以上が関心を持っているとわかった。社員が本業で生かす知見や人脈を培う機会になる。専門スキルや多様なアイデアを募る手段としても、副業の活用が企業で広がりつつある。

日本経済新聞社と就職情報サービスなどを手掛ける日経HRが10月下旬に共同で実施した副業に関する調査で会社員4279人が回答。勤務先が副業を容認しているとの答えが28.1%に上った。74.7%の会社員が副業を探すなど関心を持っていることもわかった。(日経 2020/11/28)


コロナ前の話ですが、トヨタ自動車の豊田社長が「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた。」と発言されて話題になりました。

また、経団連の中西宏明会長も、「企業は従業員を一生雇い続ける保証書を持っているわけではない」とも発言しています。

企業の建前としては、「優秀な人材を留めるため」とか「社員のスキルアップ」とか副業解禁の理由をいろいろ掲げていますが、本音は豊田社長や中西宏明会長の発言にあるのではないでしょうか。


企業に勤務しながら副業を持つと給与以外の所得が生じます。

その副業の収入から経費を差し引いた所得の金額が20万円を超えると確定申告をしなければなりません。(国税庁HP👈クリック)

そこで悩むのがその副業収入が「事業所得」なのか、「雑所得」なのかです。事業所得ならば、事業から赤字が出た場合は給与所得等との損益通算できたり、青色申告特別控除ができたりと、税金計算で何かと有利になります。

事業所得 農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得をいいます。(国税庁HP👈クリック)
雑所得 利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも当たらない所得をいい、例えば、公的年金等、非営業用貸金の利子、副業に係る所得(原稿料やシェアリングエコノミーに係る所得など)が該当します。(国税庁HP👈クリック)

事業所得と雑所得の区分については一般的には下記の点などを総合的にみて判断するとされています。
・自己の危険と計算において独立して行う業務か
・営利性と有償性を有しているか
・反復継続して遂行されて営まれているか
・社会的地位が客観的に認められているか 等など

会社に勤務しながら副業として働くといった場合、仕事の軸足が勤務にあると思います。このような場合、多くの副業は雑所得になるではないかと思います。

ただし、例えば配達の仕事反復・継続して生活をしているが、空いた時間でパート・アルバイトをしているような場合は、配達の仕事は事業所得でパート・アルバイトは給与所得としても差し支えないと思います。


執筆及び講演等の業務から生じる所得を事業所得として申告したところ、否認された下記の裁決例があります。(国税不服審判所👈クリック)

本件は、大学の准教授である審査請求人(以下「請求人」という。)が執筆及び講演等の業務から生じる所得を事業所得として申告したところ、原処分庁が、当該所得は雑所得に該当し、また、請求人が事業所得の金額の計算上必要経費に算入した費用のほとんどが家事関連費等に該当して必要経費に算入できないとして所得税の各更正処分等を行ったのに対し、請求人が、著述業を行う目的を持ち、その目的を達成する意思で執筆及び講演等を行っていたのであるから当該業務は事業に該当し、また、請求人の主張する費用はいずれも当該業務の遂行上必要な費用であるから必要経費に算入することができ、さらに、原処分に係る調査の手続には違法があり、原処分庁が提示した更正の理由には不備があるとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

 

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【相続税・贈与税】路線価の時点修正はなし

2020-11-02

・・・国税庁は、都道府県が不動産鑑定士の評価を基にまとめる基準地価(7月1日時点、毎年9月ごろに公表)が新型コロナの影響で、広範囲で大幅に下落した場合、その地域の路線価を減額修正できる措置の導入を検討している。(2020/6/24 日経)


上記新聞記事が掲載された5月、6月頃は、丸の内でさえ人影がまばらで、新幹線も乗客がほとんどいない有様でした。
路線価は、1月1日(コロナ前)を評価時点としているため、このような状況下では今年は路線価の見直しはあるだろうと思っていました。

ところが、日経平均株価をみると3月に今年の最安値1万6552円をつけた後は上昇し続け現在2万3000円前後となっています。
不動産についてもいろいろ話を聞くと、インバウンド需要は激減したものの、さほど不動産価額は下落していないという意外なものでした。

株価も不動産価額もおそらく背景にあるのは過剰流動性ではないかと思います。
政府はコロナショックを乗り越えるためにほぼ無利子で資金を供給し続け、一部行き場のない資金が株や不動産価額を下支えしているのではないかと思います。


新型コロナウイルスによる経済活動への影響から、国税庁が検討していた1~6月分の路線価の減額補正が28日見送られた。大部分の地域の地価(時価)が路線価を下回らなかったためだが、一部に15%以上下落した地域もあった。相続税などの算定基準だけに人々の関心は高く、同庁は「引き続き地価の動向を注視したい」としている。(2020/10/28 日経)


国税庁の案内文書はこちら(👈クリック)です。

上記日経新聞の記事で、15%以上下落した地域もあったとありますが、その地域だけでも路線価の減額補正すべきではないか思った方もいるかもしれません。

実は、路線価は時価の80%に設定していて20%のアローワンスを見ているという建前になっています。(国税庁HP

そのため下落が2割の範囲なら見直す必要がないということになります。

今年発生した相続で、相続財産に2割以上下落している宅地等がある場合は、必要に応じて不動産鑑定士による鑑定評価をとるなどの対応が必要になると思われます。

 

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【コラム】税務署からの預貯金の照会

2020-10-30

現在、行政から金融機関等(銀行、証券会社、生命保険会社、損害保険会社)への預貯金等の照会は書面で行われていて、年間6000万件に及ぶそうです。

そのうち、約1割が国税関係とのことです。(金融機関×行政機関の情報連携検討会 令和元年11月より)

このうち国税庁の預貯金等照会業務がいよいよデジタル化しそうです。


2020年9月24日

株式会社NTTデータ

本実証実験は、国税庁における預貯金等照会業務のデジタル化の実現に向けて、国税庁および金融機関における業務効率化効果および事務フローを検証するものです。具体的には、株式会社東邦銀行、株式会社横浜銀行、株式会社福島銀行、株式会社ゆうちょ銀行の協力のもと、これまで紙で行っていた事務作業をデジタル化した場合の削減時間の検証、デジタル化に対応した事務フロー等の環境テスト等を行います。

本実証実験を通じて、NTTデータは、国税庁および金融機関における業務効率化に貢献するとともに、「デジタル・ガバメント実行計画」に掲げられている「金融機関×行政機関の情報連携(預貯金等の照会)」を通じた行政手続のデジタル化を実現すべく、2021年度末までに120の金融機関および300自治体への導入を目指します。
株式会社NTTデータHP参照(👈クリック)


この国税庁の預貯金等照会業務ですが、金融機関×行政機関の情報連携検討会の資料の工程表によると、2022年(令和4年)頃から順次実施となっています。

今年政府は、マイナンバーと金融機関等の口座のひも付け義務化を一時検討としていました。
菅義偉内閣に変わっても、デジタル庁の創設など規制改革と行政改革を進めるとしています。

個人の所得税の確定申告は電子申告が普及し、現在約6割がe-Taxを利用しています。
つまり個人の確定申告社の6割のマイナンバーは課税当局が把握しているということです。

課税庁はマイナンバーをキーとして、金融機関等に預貯金等の照会を行い、預貯金、証券、生損保の情報を用意に把握できることになる日も遠い先ではないかもしれません。

 

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【コラム】税制改正の動向

2020-10-29

毎年の税制改正は、概ね次の日程で行われます。

①8月頃(今年は8月31日期限でした)
各省庁から「税制改正要望」が出され、国税は財務省が、地方税は総務省が取りまとめます。
主な項目を拾い上げ末尾に掲げましたが、今年は要望項目数153、廃止・縮減項目数3だそうです。

②12月頃「税制改正大綱」が発表


自民党税制調査会(甘利明会長)は20日、2021年度税制改正に向けた議論を始めた。新型コロナウイルスの影響で落ち込む消費を喚起するため住宅や自動車で税負担の軽減策を検討する。企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の促進に向けて減税先行で優遇策を探る。(2020年10月21日 日経)


各省庁から税制改正要望が出揃うと、与党の税制調査会が動き始めます。
毎年いろいろな情報が公表あるいはリークされ、新聞紙面を賑わすのもこの頃です。

例えば、今年は「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の延長及び拡充(贈与税)」は内閣府と金融庁から要望が出ていますが、甘利明税制調査会長(自民党)は、縮小を含めて議論するとして牽制しています。

これらの税制改正要望を与党(自民党・公明党)の税制調査会が審議し、税制改正大綱としてまとめ上げ、翌年度の予算案と併せて閣議決定されます。

③2月頃「税制改正法案」を国会に提出
税制改正大綱に基づき、国税については財務省、地方税については総務省が税制改正法案を作成し、2月頃に「税制改正法案」として国会に提出されます。

④改正法案が可決・成立し施行
国会に提出された税制改正法案は、衆議院・参議院の両方で審議され、例年3月末までに成立し、4月1日から改正法が施行されます。

財務省HP より👈抜粋)

贈与税 ■結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の延長及び拡充
所得税・法人税 ■試験研究を行った場合の法人税額等の特別控除の拡充及び延長
所得税 ■子育て支援に要する費用に係る税制上の措置
所得税 ■第三者への事業承継に係る課税猶予措置
相続税 ■上場株式等の相続税に係る見直し
相続税 ■死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げ
贈与税 ■教育資金一括贈与に係る贈与税の非課税措置の延長
贈与税 ■結婚・子育て資金一括贈与に係る贈与税の非課税措置の延長
 所得税・法人税 ■中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額等の特別控除(中小企業投資促進税制)の延長
酒税 ■ビールに係る酒税の税率の特例期間の延長
法人税 ■交際費課税の特例措置の拡充
所得税・法人税 ■自社株式等を対価とした株式取得による事業再編の円滑化措置
法人税 ■中小企業者等の法人税率の特例の延長
所得税・法人税 ■所得拡大促進税制の見直し及び延長
相続税・贈与税 ■非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度の見直し
登録免許税 ■土地の所有権移転登記等に係る登録免許税の特例措置の延長

 

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【所得税】(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)59-6

2020-10-28

国税庁から非上場株式のみなし譲渡課税に係る時価の算定方法を定めた、 所得税基本通達59-6 の改正通達の趣旨説明が公表されました。(資産課税課情報第22号 国税庁HP👈クリック)

この通達の改正の背景は、最高裁まで争われ最終的に国が勝った税務訴訟の判決において、裁判官の補足意見があり「分かりやすさという観点から改善されることが望ましい」と指摘されたためです。したがって、国の従来からの取扱を変えたわけではなく、誤解のないように通達を改めたということです。


非上場株式のことを税法では取引相場のない株式といいますが、そもそも取引がない株式の時価などあるのかと、いった問題があります。

それはさておき、この非上場株式も財産なので相続税の課税の対象になります。その際の評価方法が、財産評価基本通達(国税庁HP 👈クリック)に定められています。

所得税法では法人に贈与したり、著しく低い価額の対価で譲渡した場合には時価で譲渡したものとみなされる取扱になっています。(国税庁HP 👈クリック)

非上場株式を法人に贈与等した場合にもこの規定の取扱があります。
その場合の非上場株式の時価の算定について、相続で使う財この産評価基本通達を利用しようというのが、所得税基本通達59-6というの通達です。


上記税務訴訟で争われたの内容そのものは、ほとんどの税理士は国側の取扱をしていたので実務に影響はないと思われます。

注目する点は、この通達における非上場株式の評価方法について、かねてより税理士などの専門家の間で議論があった次の疑問点を、この通達改正の趣旨説明で明らかにされたことです。

【疑問】類似業種比準価額を算出する計算において類似業種の株価等に乗ずるしんしゃく割合は、実際の会社規模に応じた割合(0.7)にするのか、小会社としての割合(0.5)にするのか。
【回答】評価会社の株式の価額を評基通179の例により算定するときは「小会社」とするが、評基通180のしんしゃく割合は評価会社の会社規模に応じたものとする。

 

【疑問】評価会社が子会社にとって「中心的な同族株主」に該当する場合にも、その子会社株式の価額は「財産評価基本通達178に定める『小会社』に該当するものとして」同通達179の例により算定することが相当ではないか。
【回答】評価会社が有する子会社株式の価額を算定する場合においても、子会社が「小会社」に該当するものとして「純資産価額方式」又は「類似業種比準方式と純資産価額方式との併用方式(Lを0.5として計算)」による価額とすることが相当である。

 

【疑問】子会社株式を評価する場合の「1株当たりの純資産価額」の計算に当たって、その子会社が有する土地及び上場株式についても、評価会社の株式の譲渡等の時における価額(≠相続税評価額)により当該子会社株式の評価をするのが相当ではないか。
【回答】評価会社が有する子会社株式を「純資産価額方式」で評価する場合において、子会社が有する土地及び上場株式も譲渡等の時における価額(≠相続税評価額)によるのが相当である。

 

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【コラム】書面添付制度

2020-10-27

税理士法では、申告書と共に次の2つの書類を提出している場合は、税務調査の通知前に、その税理士に、添付書面に記載された事項に関する意見を述べる機会を与えなければならないとされています。
■税理士に申告を依頼した場合に申告書と一緒に提出する「税務代理権限証書」
■申告書の作成に関し、計算し・整理し・相談に応じた事項を記載した「一定の書面」

これを総称して書面添付制度と言います。
平成13年の税理士法改正で、事前通知前の意見聴取制度が創設されましたが、次のとおりあまり普及していません。

(単位:%)

年 度  平成26年度   27年度  28年度  29年度  30年度
所得税 1.1 1.2 1.3 1.3 1.4
相続税 11.8  13.6 15.6 18.2  20.1
法人税  8.4 8.6 8.8 9.1 9.5

-財務省HPより-

所得税の書面添付の割合が低いのは、確定申告期限(2月16日~3月15日)が区切られているため税理士もそこまで手が回らないといった事情があるのだと思います。

一方、相続税では5件に1件は書面添付がなされていますが、これはお亡くなりになられてから申告まで10ヶ月あり、財産調査など余裕をもって取り組めるからだと思います。

法人税は申告の件数も多いですが、申告業務だけの場合から、毎月訪問して会社の資料を詳しく見ている場合まで、法人の規模や経理体制によって関与の仕方にバラツキがあることがこの数字に現れていると思います。


納税者にとって、この書面添付制度のメリットは次の2つだと思います。
■調査省略について
記載内容が良好で、税理士に対しての意見聴取の結果、疑義が解消し、結果として調査の必要性がないと認められた場合には、納税者の事務所等に臨場して行う帳簿書類の調査が省略されることがあります。

■過少申告加算税について
税務署の調査を受けた後の修正申告では、過少申告加算税(追徴税額の10%又は50万円のいずれか多い方)がかかります。
一方、自主的に修正申告をした場合は、この過少申告加算税が課されません。
この書面添付制度に基づく税理士からの意見聴取後、自主的に修正申告書が提出された場合、原則加算税は課さない取扱になっています。

国税当局では、意見聴取の機会の積極的な活用に努めることとされており、個別・具体的な非違事項の指摘に至る場合もあるものと考えられます。
なお、意見聴取が行われ、その後に修正申告書を提出したとしても、原則として、加算税は賦課されませんが、当該修正申告書を意見聴取の際の個別具体的な非違事項の指摘に基づいて提出するなど、「更正の予知」があったと認められる場合には、加算税が賦課されることになります。(国税庁HP 👈クリック)

書面添付制度にはこのようなメリットがあるのに何故普及が進まないのでしょうか。
おそらく税理士が申告書の作成に関し、計算・整理・相談に応じた事項を記載した書面を作成するためには、納税者と常日頃から相当突っ込んだ情報共有をしている必要があるからだと思います。

次は、日本税理士連合会が公表している「良好ではない添付書面の記載」です。
①空欄が多いもの
②「特になし」や「特段なし」などの記載が多いもの
③毎期ほとんど定型的な文章が記載されているもの
④どの関与先についても記載内容がほぼ同一のようなもの
⑤その関与先固有の内容が記載されていないもの
⑥業種、業態、経営状況の中味を評価、分析していないもの
⑦決算の修正事項に関し全く記載がないもの
⑧記載している項目について明らかに不備があるもの
⑨記載内容が具体的でないもの

 

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【コラム】申告書の押印廃止

2020-10-26

加藤勝信官房長官は19日の記者会見で「政府全体として不要な押印は廃止する方向で検討を進めている。国税関係手続きでの押印についても、納税者の利便性向上の観点から財務省で見直しを検討している」と述べた。(2020/10/19 日経)


もともと申告書は自署・押印でした。その制度の趣旨は、「自署・押印制度は、その導入当時(昭和25年)、代表者又は経理担当の責任者が申告書に記載された事項について了知していない法人が見受けられたという状況を背景に・・・(財務省・平成30年度税制改正の解説より」とあるように、申告納税制度が未熟な時代にその責任を明確にするというものでした。

それが、平成30年度の税制改正で、電子申告の普及の妨げになっているとして法人税法本法では廃止となりました。
その結果、法人税は国税通則法(124①②)の適用を受けることになり、所得税、消費税、相続税と同様に記名・押印という中途半端な形になりました。

さらに、税理士法(33 ①)が改正されなかったことから、税理士が税務代理をする場合は依然として自署・押印となっています。


おそらく令和3年の税制改正で、現行の記名・押印(税理士が税務代理をする場合は署名・押印)は改正にされ、記名のみになると思われます。

すでに電子申告をされている方はともかく、書面で申告をしている方は何度か下書きを繰り返しながら申告書を仕上げ、最期に押印をして出していると思います。

慣れるまでのことかもしれませんが、その押印がなくなってしまうのは、最初のうちはややもの足りなさを感じるかもしれません。

 

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【相続税】小規模宅地の特例の当初申告要件

2020-10-23

税金の申告にあたって、納税者にとって有利になる制度の適用を受けるための意思表示を、当初の申告(期限内申告、期限後申告)において行われなければならないものがあります。これを「当初申告要件」といいます。

小規模宅地等の特例には、この当初申告要件があります。また、修正申告であっても認められていますが、更正の請求は原則として認められていません。

・期限内申告書(相続の開始があつたことを知つた日の翌日から10月以内) 措法69の4⑦
・期限後申告書
・修正申告書

■期限後申告書の例
・相続税の申告義務がないと思って申告しなかったが、税務調査で新たに財産が見つかった。
・小規模宅地等の特例の適用すれば納税額がゼロだったので、申告しなかった。

■修正申告書の例
・配偶者が居住用住宅を相続したが、配偶者の税額軽減(国税庁HP 👈クリック)を使うことによって配偶者に税額が生じなかったため小規模宅地の特例を適用しなかったが、評価誤り又は新たに財産が見つかり税額が生じることになった。

■更正の請求の例(不可
・小規模宅地等の特例を受け相続税の申告をした後、もっと有利な土地の選択があることが判明したとしても、特例適用宅地等を変更する選択替えは認められていません。


この小規模宅地等の特例は、対象となる宅地について申告期限までに分割されていなければ適用がありません。

ただし、対象となる宅地が未分割であっても、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付することによって、相続税の申告期限から3年以内に分割された場合には、特例の適用を受けることができます。

この場合、分割が行われた日の翌日から4か月以内に更正の請求を行うことができます。


さらに、相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日において相続等に関する訴えが提起されているなど一定のやむを得ない事情がある場合には、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出することができます。

この申請につき所轄税務署長の承認を受けた場合には、判決の確定の日など一定の日の翌日から4か月以内に分割されたときに、これらの特例の適用を受けることができます。

この場合も、分割が行われた日の翌日から4か月以内までに更正の請求を行うことができます。

 

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