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【相続税・贈与税】中立的な相続税・贈与税に向けた検討
ここ数年、税制改正大綱で「資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税」が検討事項として挙げられています。
その中で、昨年(令和2年度)の税制改正大綱では、「・・・教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置及び結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置についても、次の適用期限の到来時に、その適用実態も検証した上で、両措置の必要性について改めて見直しを行うこととする。」とされていました。
これを受けて、今年(令和3年度)の税制改正で、教育資金の一括贈与は教育資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合には、23歳未満や在学中などの場合を除いて相続財産に取り込まれるなどとされた上で、2年延長されました。
また、結婚・子育て資金の一括贈与についても適用を厳しくした上で2年延長されますが、「利用件数が極めて少ないこと等を踏まえ、次の適用期限の到来時に、制度の廃止も含め、改めて検討する。」とされています。
ここで言いたいことは、税制改正大綱に記載されている「・・・検討する。」は本当に検討され、改正されるかもしれないと言うことです。
令和3年度の税制改正の「 資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税に向けた検討」(税制改正大綱18頁)を改めてみてみると次のとおりです。
■経済の活性化対策の手段
高齢世代が保有する資産がより早いタイミングで若年世代に移転することになれば、その有効活用を通じた、経済の活性化が期待される。このため、資産の再分配機能の確保に留意しつつ、資産の早期の世代間移転を促進するための税制を構築することが重要な課題となっている。 |
高齢者が金融資産を保有していても消費に回らない、高齢者が不動産を保有していても有効活用しない。
そこで税制を利用して、これらの資産を早期に若年世代に移転させることができれば、経済の活性化につながるだろうということです。
■贈与税は相続税の補完税
わが国の贈与税は、相続税の累進回避を防止する観点から、高い税率が設定されており、生前贈与に対し抑制的に働いている面がある。一方で、現在の税率構造では、富裕層による財産の分割贈与を通じた負担回避を防止するには限界がある。 |
相続税は、財産が多くなればなるほど税率が高くなる累進課税です。(相続税の税率国税庁HP👈クリック)
贈与税率が相続税率よりも低ければ、これを利用して相続税の回避ができてしましまいます。
現行では相続税も贈与税も最高税率は55%で変わらないのですが、贈与税率は移転する財産の価額が低い段階から急カーブで高くなる構造です。(贈与税の税率国税庁HP👈クリック)
■相続・贈与いずれであっても税負担が一定となる仕組みを検討
諸外国では、一定期間の贈与や相続を累積して課税すること等により、資産の移転のタイミング等にかかわらず、税負担が一定となり、同時に意図的な税負担の回避も防止されるような工夫が講じられている。 今後、こうした諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化の防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。 |
相続時精算課税を選択すると、その後の贈与税については贈与財産を累積し、特別控除額(2,500万円)までは無税、2,500万円を超えると一律20%の贈与税が課税されます。
ただしこの場合、その贈与者が亡くなった時の相続税の計算上、相続財産の価額に贈与した贈与財産の価額(贈与時の時価)を加算して相続税額を計算します。なお、相続時精算課税を一度選択すると、通常の暦年課税には戻れません。(詳しくは国税庁HP👈クリック)
今までは、基礎控除額110万円の贈与税の暦年課税が原則で、相続時精算課税はその例外として選択するという位置づけでした。
財産を生前に贈与しても、相続まで待っても税負担が一定という仕組みを想定するとなると、相続税の暦年課税から相続時精算課税のような課税の仕組みに、軸足が移るのかもしれません。
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法人の決算申告や個人の確定申告、相続税・贈与税の申告、事業承継や株価対策など、幅広い内容に日常的に対応。学校法人や宗教法人の申告、組織再編、セカンドオピニオンのご相談も承ります。
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【法人税】(中小企業)経営資源集約化税制の創設
令和3年度税制改正大綱での目玉の一つとして、経営資源集約化税制の創設があります。
この制度は、経済産業省・厚生労働省・国土交通省が共同で要望した事項ですが、その目的として「ウィズコロナ/ポストコロナ社会に向けて、地域経済・雇用を担おうとする中小企業による経営資源の集約化等を支援する。(経済産業省) 」とあります。
政府がイメージしているのは、中小企業版のM&A税制だと思います。
例えば、コロナでも余力のある販売会社が製造会社の株式等を買い取って製販一体の体制にする、観光地のホテル・旅館がコロナで疲弊した同業者を買い取るといったことでしょうか。
中小企業の経営資源の集約化による事業の再構築などにより、生産性を向上させ、足腰を強くする仕組みを構築していくことが重要である。このため、経営資源の集約化によって生産性向上等を目指す計画の認定を受けた中小企業が、中小企業の株式の取得後に簿外債務、偶発債務等が顕在化するリスクに備えるため、準備金を積み立てたときは、損金算入を認める措置を講ずる。・・・(令和3年度税制改正大綱13頁より)
[概要]
対象者 | 青色申告書を提出する中小企業者で中小企業等経営強化法の経営力向上計画※(経営資源集約化措置(仮称)が記載されたものに限る。)の認定を受けたもの |
要件 | その認定に係る経営力向上計画に従って他の法人の株式等の取得(購入による取得に限る。)をすること |
取得した株式等をその取得の日を含む事業年度終了の日まで引き続き有していること | |
その株式等の取得価額が 10 億円を超える場合は対象とはならない | |
損金算入 | その株式等の価格の低落による損失に備えるため、その株式等の取得価額の70%以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その積み立てた金額は、その事業年度において損金算入できる |
益金参入 | この準備金は、その株式等の全部又は一部を有しなくなった場合、その株式等の帳簿価額を減額した場合等において取り崩すほか、その積み立てた事業年度終了の日の翌日から5年を経過した日を含む事業年度から5年間でその経過した準備金残高の均等額を取り崩して、益金算入する。 |
※中小企業等経営強化法の改正が前提で、この制度が現行の経営力向上計画の支援措置(👈中小企業庁HP)の対象になるのだと思います。
[適用時期]
令和4年4月1日以後に終了する事業年度から適用する。
なお、中小企業等経営強化法の改正法の施行の日から令和6年3月 31 日までの間に中小企業等経営強化法の経営力向上計画(経営資源集約化措置(仮称)が記載されたものに限る。)の認定を受けた株式等が対して適用される。
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【法人税】所得拡大促進税制の見直し
先日(12月10日付)、令和3年度の税制改正大綱が政府与党より公表されました。ここ数年大きな改正項目はありませんでしたが、今年も普段の実務に直結する改正は多くありません。
改正項目としては、まずは「所得拡大促進税制」でしょうか。
経済の好循環のためには、企業が生み出した付加価値の従業員給与への還元を促すことが引き続き必要である。雇用の維持・確保への懸念がある中においては、特に中小企業全体として雇用を守りつつ、賃上げによる所得拡大を促すことが重要である。このため、賃上げだけでなく、雇用を増加させる企業を下支えする観点から、従来の①雇用者給与等支給額が前年度を上回ること、②継続雇用者給与等支給額の 1.5%以上増加という要件を雇用者給与等支給額が1.5%以上増加という要件に見直した上で2年延長する。(令和3年度税制改正大綱13頁より)
現行法では「継続雇用者」となっていますが、これが「雇用者」に変わります。
継続がつくか否かで、実務における事務の労力に大きな違いがあります。
継続雇用者だと次の全ての要件を満たす者を抜き出して集計しなければなりませんでした。
・前事業年度及び適用事業年度の全ての月分の給与等の支給を受けた国内雇用者である。
・前事業年度及び適用事業年度の全ての期間において雇用保険の一般被保険者である。
・前事業年度及び適用事業年度の全てまたは一部の期間において高年齢者雇用安定法に定める継続雇用制度の対象となっていない。
さらに、継続がつかなくなることで必ずしも給料をあげなくても、雇用を増やすことでこの制度の適用が受けられることになります。
[適用要件]
改正前 | 改正後 |
①雇用者給与等支給額 > 前期の雇用者給 与等支給額 | 雇用者給与等支給額 ≧ 前期の雇用者給与等支給額×101.5% |
②継続雇用者給与等支給額 ≧ 前期の継続雇用者給与等支給額×101.5% |
[税額控除]
改正前 | 改正後 |
(雇用者給与等支給額-前期の雇用者給与等支給額)× 15% | (雇用者給与等支給額-前期の雇用者給与等支給額)× 15% |
下記の①及び②の要件を満たす場合は、15%に10%上乗せして25%となる。 ①継続雇用者給与等支給額 ≧ 前期の継続雇用者給与等支給額×102.5% ②下記のいずれかを満たす場合 イ)適用事業年度における教育訓練費の額が前事業年度における教育訓練費の額と比べて10%以上増加していること。 ロ)適用事業年度の終了の日までに中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の認定を受けており、経営力向上計画に基づき経営力向上が確実に行われたことにつき証明がされて 法人又は個人のその事業に係る国内雇 いること。 |
同左
①雇用者給与等支給額 ≧ 前期の雇用者給与等支給額×102.5% イ)同左 ロ)同左 |
控除税額は適用年度の法人税額の20%を上限とする。 | 同左 |
[適用時期]
令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する事業年度について適用される。
[留意点]
・上記①及び②の要件を判定する場合には、雇用調整助成金及びこれに類するものの額を控除しない。 |
・税額控除率を乗ずる基礎となる雇用者給与等支給額から前期の雇用者給与等支給額を控除した金額は、雇用調整助成金及びこれに類するものの額を控除して計算した金額を上限とする。 |
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【所得税】上場株式等の売買にかかる特定口座
2020年の株式相場を振り返ると、新型コロナウイルスの感染拡大に伴いインバンド関連銘柄が大きく下落しました。一方、在宅、巣ごもりにみられる新生活様式に関連した銘柄は上昇しました。
コロナ禍に対する国の金融政策により市場に溢れた資金の一部は投資に向かい、株価は徐々に上昇し、日経平均は1991年5月以来29年ぶりの26,000円台にとなりました。
今年も余すところ一月足らず、確定申告の時期が近づいて来ました。株で儲かった人も、思いかけず損をした人も申告の準備は早めにしたほうがよいと思います。
上場株式等の売買にあたっては、原則として証券会社をとおしておこないますが、証券会社の口座には、①一般口座、②-1特定口座:源泉徴収なし、②-2特定口座:源泉徴収あり、3種類があります。
①一般口座
自分自身で売買記録にもとづき〔譲渡所得の金額=総収入金額-(取得費+譲渡費用)〕を計算することになります。
売買の回数が多い場合は、取得費(総平均法)の計算が煩雑になるので、特定口座ををお勧めします。
②特定口座
特定口座内における上場株式等の譲渡所得等の金額については、証券会社において一般口座で譲渡した他の株式等の譲渡による所得と区分して計算してくれます。
②-1 源泉徴収なし
証券会社から送られる特定口座年間取引報告書に基づいて自分で確定申告します。
②-2 源泉徴収あり
源泉徴収ありの特定口座では、上場株式等の配当金を受け入れることができます。
上場株式等の配当所得は20.315%(所得税15.315%、住民税5%)源泉徴収されます。
また、上場株式等の譲渡所得についても20.315%(所得税15.315%、住民税5%)源泉徴収されます。
上場株式等の譲渡について譲渡損が生じた場合は、上場株式等の配当所得と損益通算が行われ、源泉徴収税額の過納分が還付されます。
このように源泉徴収ありの特定口座では、上場株式等の配当所得と上場株式等の譲渡損との損益通算が行われるため、原則として確定申告は不要になります。
ただし、他の特定口座で生じた上場株式等の譲渡損益や配当所得と相殺する場合、上場株式等に係る譲渡損失を繰越控除する場合の特例の適用を受けるなどの場合には、確定申告をする必要があります。
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【所得税】給与所得者の基礎控除申告書
年末調整の時期になりました。令和2年の税制改正に伴い、年末調整ために従業員が会社に提出する申告書の用紙も変更されています。
従来の「給与所得者の配偶者控除等申告書」が「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」となりました。
(国税庁HP👈クリック)
このうち、「給与所得者の基礎控除申告書」には、給与所得を記載する欄と給与所得以外の所得の合計額を記載する欄が設けられています。
まず、「給与所得」の欄ですが、ここには2以上の支払者がある場合その総額を記載することになっています。
副業として給与所得がある場合はその副業も含めた合計の見積もり額が収入金額になります。
「給与所得以外の所得の合計額」の欄には所得を書くことになっています。
副業がある場合は収入から経費を差し引いた所得の見積もり金額を自分で計算し記載することになります。
ところで、勤務先やその関連会社から複数の給与を受けている場合や会社が副業を認めているような場合は、これらの欄に記入することについて悩むことはありません。
問題は、会社が副業を認めていない場合です。
副業が給与所得の場合、副業先には通常「給与所得の扶養控除等申告書」を提出していないと思われます。
この場合は、副業先の会社は税務署には給与収入が年間50万円を超えていなければ「給与所得の源泉徴収票」が提出されないのですが、副業先が副業をしている人の住所地の市町村に提出する給与支払報告書には金額のすべて記載されてしまいます。
また、副業が給与所得以外の場合も、副業先の会社が税務署に提出する支払調書やその会社の税務調査でやはり税務署がわかる可能性があります。
では、会社に提出する「給与所得者の基礎控除申告書」に副業にかかる部分を記載しないでおいて、別途確定申告をすればどうでしょう。
これは、給与所得者にとって年末調整は義務ですから、意図的に基礎控除申告書に不実の記載するのはルール違反だと思います。
たとえ確定申告したとしても翌年給料から天引きされる住民税の額から、副業していることを会社が知る可能性は残ります。
こういったことの本質は、本来国民は確定申告をするべきところ、年末調整という便宜的な方法で給与の支払い者である会社を介在させ、個人の確定申告の代わりをさせていることにあります。
その結果、寡婦控除やひとり親控除もそうですが、本来国民のプライバシーにかかる部分を会社にオープンにしなければならない結果となっています。
電子申告を含む行政の電子化の機運が高まりつつあります。
そろそろ年末調整という制度の見直しの議論が出てもよいのではないでしょうか。
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【所得税】ひとり親控除
年末調整の時期になりました。
今年から年調はとても複雑になりました、税理士もそうですが企業の担当者も大変だろうと思います。
主な改正点は次です。
・給与所得控除の改正
・所得金額調整控除の創設
・合計所得金額に応じた基礎控除改正
・ひとり親控除の創設
・寡婦控除の改正
この改正に伴い、年末調整ために従業員が会社に提出する申告書の用紙も変更されています。
これまで、婚姻歴のない、いわゆる未婚のひとり親は寡婦(寡夫)控除の対象とはなっていませんでした。これについて、かねてより、・ 未婚のひとり親も婚姻歴のある親も経済的に苦しい状況は同じであり、・ 離婚・死別した親の子どももいわゆる「未婚の母」等の子どもも「ひとり親の子ども」という点では同じであって、過去の婚姻歴の有無で区別することは不公平といった理由により、寡婦(寡夫)控除の対象に未婚のひとり親を加えるべきとの主張がありました。
:
最終的には子どもの生まれた環境や家庭の経済事情に関わらず、全てのひとり親家庭に対して公平な税制を実現する観点から、「婚姻歴の有無による不公平」と「男性のひとり親と女性のひとり親の間の不公平」を同時に解消し、同一の「ひとり親控除」を適用することとされました(その際、住民票の続柄に「夫(未届)」「妻(未届)」の記載がある者は対象外とされました 。)。(財務省HP👈クリック)
このような趣旨で、今年から寡婦(寡夫)控除が改正され、ひとり親控除及び(新)寡婦控除になりました。なお、特別の寡夫は廃止されました。
会社に提出する「給与所得者の不要控除等(異動)申告書」には、ひとり親に該当する場合はレ点をいれるようになっています。
ひとり親(所法2①三十一) 現に婚姻をしていない者又は配偶者の生死の明らかでない者で(・・・)もののうち、次に掲げる要件を満たすものをいう。 イ その者と生計を一にする子(・・・)を有すること。 ロ 合計所得金額が500万円以下であること。 ハ その者と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる者※(・・・)がいないこと。 ※住民基本台帳の続柄の記載が未届の夫又は見届の妻となっていないこと |
事実婚の場合で社会保険の関係から住民票には未届の夫又は見届の妻としてなっている場合があります。
しかし、会社にはその事実を知られたくない、しかしひとり親の控除は受けたいとして、ひとり親の箇所にレ点をつけなかったらどうなるでしょうか。
ひとり親の控除を受ければ所得税だけでなく住民税も安くなります。
住民基本台帳の整備・管理等は住所地の市町村で行いますので、この場合おそらく住民税の方から発覚するのではないでしょうか。
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【所得税】副業の普及
会社で働きながら社外に職を持つ「副業」が普及している。日本経済新聞社と日経HRの共同調査では副業を認める企業は3割に上り、会社員の7割以上が関心を持っているとわかった。社員が本業で生かす知見や人脈を培う機会になる。専門スキルや多様なアイデアを募る手段としても、副業の活用が企業で広がりつつある。
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日本経済新聞社と就職情報サービスなどを手掛ける日経HRが10月下旬に共同で実施した副業に関する調査で会社員4279人が回答。勤務先が副業を容認しているとの答えが28.1%に上った。74.7%の会社員が副業を探すなど関心を持っていることもわかった。(日経 2020/11/28)
コロナ前の話ですが、トヨタ自動車の豊田社長が「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた。」と発言されて話題になりました。
また、経団連の中西宏明会長も、「企業は従業員を一生雇い続ける保証書を持っているわけではない」とも発言しています。
企業の建前としては、「優秀な人材を留めるため」とか「社員のスキルアップ」とか副業解禁の理由をいろいろ掲げていますが、本音は豊田社長や中西宏明会長の発言にあるのではないでしょうか。
企業に勤務しながら副業を持つと給与以外の所得が生じます。
その副業の収入から経費を差し引いた所得の金額が20万円を超えると確定申告をしなければなりません。(国税庁HP👈クリック)
そこで悩むのがその副業収入が「事業所得」なのか、「雑所得」なのかです。事業所得ならば、事業から赤字が出た場合は給与所得等との損益通算できたり、青色申告特別控除ができたりと、税金計算で何かと有利になります。
事業所得 | 農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得をいいます。(国税庁HP👈クリック) |
雑所得 | 利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも当たらない所得をいい、例えば、公的年金等、非営業用貸金の利子、副業に係る所得(原稿料やシェアリングエコノミーに係る所得など)が該当します。(国税庁HP👈クリック) |
事業所得と雑所得の区分については一般的には下記の点などを総合的にみて判断するとされています。
・自己の危険と計算において独立して行う業務か
・営利性と有償性を有しているか
・反復継続して遂行されて営まれているか
・社会的地位が客観的に認められているか 等など
会社に勤務しながら副業として働くといった場合、仕事の軸足が勤務にあると思います。このような場合、多くの副業は雑所得になるではないかと思います。
ただし、例えば配達の仕事反復・継続して生活をしているが、空いた時間でパート・アルバイトをしているような場合は、配達の仕事は事業所得でパート・アルバイトは給与所得としても差し支えないと思います。
執筆及び講演等の業務から生じる所得を事業所得として申告したところ、否認された下記の裁決例があります。(国税不服審判所👈クリック)
本件は、大学の准教授である審査請求人(以下「請求人」という。)が執筆及び講演等の業務から生じる所得を事業所得として申告したところ、原処分庁が、当該所得は雑所得に該当し、また、請求人が事業所得の金額の計算上必要経費に算入した費用のほとんどが家事関連費等に該当して必要経費に算入できないとして所得税の各更正処分等を行ったのに対し、請求人が、著述業を行う目的を持ち、その目的を達成する意思で執筆及び講演等を行っていたのであるから当該業務は事業に該当し、また、請求人の主張する費用はいずれも当該業務の遂行上必要な費用であるから必要経費に算入することができ、さらに、原処分に係る調査の手続には違法があり、原処分庁が提示した更正の理由には不備があるとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。 |
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【法人税】賃上げ・生産性向上のための税制(大企業向け)の見直し
政府・与党は大企業の採用を促進する税優遇措置を2021年度に導入する。新卒や中途の新規採用者に支払う給与支給額が前年度より一定額増えた企業に支払額の15%を税額控除する。新型コロナウイルスによる採用減で若年層の雇用環境が「氷河期」に陥らないよう税制で手当てする。
18年度に導入した大企業に賃上げを促す現在の法人税減税の仕組みを抜本的に改める。コロナ禍で賃上げしにくい企業が増えているため、制度の軸足を賃上げから雇用下支えに移す。(2020/11/28 日経)
賃上げを促す法人税減税というのは、「賃上げ・生産性向上のための税制(大企業向け)」(経済産業省HP👈クリック))と「所得拡大促進税制(中小企業向け)」(中小企業庁HP👈クリック)の2本立てになっています。
経済産業省所轄の税制はどれもそうなのですが、この2つの税制も極めて煩雑な集計をしなければなりません。
例えば適用要件の一つに継続雇用者給与等支給額が前事業年度と比較して3%以上(中小企業の場合は1.5%)増加していなければならないとされています。
一口に継続雇用※といっても、従業員の中には、年の中途入社や退職した人、休職した人、非正規雇用者から正規雇用者になった人など様々な人がいます。そのすべての人について継続雇用に該当するか否か確認をしながら給与等の支給額を計算しなければなりません。
※継続雇用者とは以下の全てを満たす者を指します。
① 前事業年度及び適用年度の全ての月分の給与等の支給を受けた国内雇用者である
② 前事業年度及び適用年度の全ての期間において雇用保険の一般被保険者である
③ 前事業年度及び適用年度の全てまたは一部の期間において高年齢者雇用安定法に定める継続雇用制度の対象となっていない
税制は本来シンプルであるべきで、このような煩雑な集計をした結果3%(中小企業の場合は1・5%)に達しなければ無駄な作業になってしまいます。
そもそも企業が設備投資や賃上げをするにあたって、この制度がインセンティブになっているのか疑問ですし、その検証結果も公表されていないと思います。
減税制度があって減税額がこのくらい見込まれるから、賃上げをしよう、設備投資をしようといいうのが本来の姿だろうと思います。
新聞記事によりますと、「大企業に賃上げを促す現在の法人税減税の仕組みを抜本的に改める」とありますので、上記のうち「賃上げ・生産性向上のための税制(大企業向け)」の方を改正するのだと思います。
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【所得税】勤続5年以内の退職所得の見直し
政府・与党は2021年度の税制改正で、退職金課税制度を見直す方針だ。役員を除く社員が勤続5年以内に退職金をもらう際、控除額を大幅に上回る場合は税負担の軽減措置を縮小する案が有力だ。
外資など一部企業では給与を少なくする一方で退職金を多くして社員が税軽減を受けるケースがあり、制度の趣旨にそぐわない節税策として問題視されていた。与党の税制調査会で議論し、12月にまとめる税制改正大綱に盛り込む。
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具体的には、勤続5年以内の社員について控除額から300万円程度上回る退職金を得た場合は2分の1の軽減措置が受けられないようにする案を軸に検討する。(2020/11/28 日経)
退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与とされ、次のように計算します。
(収入金額 - 退職所得控除額) × 1 / 2 = 退職所得の金額 | |
【退職所得控除額】 | |
勤続年数20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円に満たない場合には、80万円) |
勤続年数20年超 | 800万円 + 70万円 × (勤続年数- 20年) |
上記算式を見れば、退職所得は優遇されていることがよくわかります。会社に長く勤めるほど退職所得控除額は多くなり、退職所得控除額を差し引いた後の金額を2分の1してくれます。
終身雇用を前提とした時代はこれで特段問題はなかったのですが、人材の流動化・グローバル化とともにいろいろと考える人達が出てきます。
例えば、海外企業から日本の子会社に一定期間出向するという場合、月々の給料は低く抑えて、母国に戻るときに退職金として差額をもらうという方法です。
ところで、上記新聞記事には「・・・役員を除く社員・・・」とあります。
実は、既に役員については平成24年度の税制改正で、勤続年数が5 年以下の場合は特定役員退職手当等として上記算式中2分の1の部分の適用がされないことになっています。(国税庁HP👈クリック)
・・・退職所得については、長期間にわたる勤務の対価が一時期にまとめて後払いされるものであることや、退職後の生活保障的な所得であること等を考慮し、退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1に課税するという累進緩和措置が採られていますが、この2分の1課税があることを前提に、短期間のみ在職することが当初から予定されている法人の役員等が、給与の受取りを繰り延べて高額な退職金を受け取ることにより、税負担を回避するといった事例がかねてより指摘されており、今回の改正において、勤続年数5年以下の法人の役員等の退職所得については、この2分の1課税を廃止することとされました。(国税庁HP👈クリック) |
時代の変遷とともに終身雇用が見直されつつある中で、そもそも退職所得の計算方法は転職者にとっては不利な税制という見方があります。
一方では、退職所得の計算方法が根本的に見直されてしまうと、既に退職所得を前提とした給与体系に組み込まれている人たちには、想定外の不意打ちを食らう結果になります。それは、一般企業で働くサラリーマンだけでなく、国・地方の公務員も例外ではありません。
来年の税制改正で、勤続年数5年以下の一般社員の退職金については役員等の場合と同様に課税が強化されるのだと思いますが、退職所得の抜本的な見直しはもう少し先ではないでしょうか。
∞∞ 吉岡 ∞∞

税理士法人熊谷事務所は、東京都千代田区神保町を拠点に、東京都区部や多摩地域はもちろん、埼玉県・千葉県・神奈川県まで幅広く対応しています。遠方の方にはリモートでのご相談も可能です。
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【相続税】小規模宅地等の特例の適用対象地の合意(一部未分割の場合)
小規模宅地等の特例は、遺産分割が申告期限(10ヶ月)までに行われていない場合にはこの特例の適用を受けることはできません。
ただし、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」(国税庁HP👈クリック)を添付して提出しておき、相続税の申告期限から3年以内に分割された場合には、適用を受けることができます。この場合、分割が行われた日の翌日から4か月以内に「更正の請求」を行うことになります。
また、相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までに訴えが提起されているなどのやむを得ない事情がある場合には、所定の手続き(国税庁HP👈クリック)をすることにより、判決等が確定するまで期限が延長されます。この場合は、その確定したした日の翌日から4か月以内までに「更正の請求」をすることになります。
ところで、小規模宅地等の特例は、対象となり得る宅地等を取得した全ての人の同意がなければ適用を受けることはできません。
では、小規模宅地等の特例の対象となり得る宅地等が複数あって、そのうち一部が未分割だった場合はどうなるでしょうか。
この場合にも、その宅地を相続する可能性が相続人全員にあることから、相続人全員の同意が必要とする下記裁決例があります。
平成21年4月相続開始に係る相続税について遺産が未分割であることにつきやむを得ない事由がある旨の各承認申請の各却下処分・棄却・平成26年6月2日裁決(国税不服審判所HP👈クリック) : 特例対象宅地等を取得した全ての個人とは、特例対象宅地等が未分割であることから共有で取得され、その後、当該特例対象宅地等が分割される際に、本件特例を適用する可能性のある者も含まれると解されるのであるから(・・・)、未分割である特例対象宅地等に該当するf市土地相続分を共有で取得している本件相続人ら全員の同意を証する書類を提出しなければならないこととなる。 : 特例対象宅地等を取得した全ての個人の同意を証する書類の添付が求められている趣旨は、上記・・・のとおり、同一の被相続人に係る相続人等が特例対象宅地等のうち、それぞれ異なる特例対象宅地等を選択して本件特例の適用を受けようとして、相続税の課税価格が確定できない結果となることがないようにすることにある。 : したがって、本件特例の趣旨等から、特例対象宅地等を取得した全ての個人の同意を証する書類の添付がなくとも本件特例の適用が認められるべきであるとする請求人の主張は採用できない |
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