Archive for the ‘所得税’ Category
【コラム】当初申告要件の廃止
税金の申告にあたって、納税者にとって有利になる制度の適用を受けるための意思表示を、当初の申告(期限内申告、期限後申告)において行われなければならないものがあります。これを「当初申告要件」といいます。
この当初申告要件の多くは、次のとおり平成23年12月の税制改正において廃止されました。
当初申告時に選択した場合に限り適用が可能な「当初申告要件」がある措置について、次のいずれにも該当しない措置については、「当初申告要件」が廃止され、更正の請求範囲が拡大されました。
・ インセンティブ措置
・ 利用するかしないかで、有利にも不利にもなる操作可能な措置
次の措置については、上記のいずれにも該当しないことから、「当初申告要件」が廃止されました。(財務省HPより)
この改正により、確定申告で適用を受けなかった場合でも、修正申告や更正の請求において新たに制度の適用を受けることができます。
当初申告要件が廃止された主なものは次のとおりです。
・ | 受取配当等の益金不算入 | 法法23⑧ |
・ | 外国子会社から受ける配当等の益金不算入 | 法法23の2⑤ |
・ | 国等に対する寄附金,指定寄附金及び特定公益増進法人等に対する寄附金の損金算入 | 法法37⑨ |
・ | 所得税額控除 | 法法68④ |
・ | 外国税額控除 | 法法69⑮⑯ |
・ | 公益社団法人又は公益財団法人の寄附金の損金算入限度額の特例 | 法令73の2 ② |
・ | 適格合併等による欠損金の引継ぎにおける譲渡等損失額の損金不算入の対象外となる資産の特例 | 法令112 ⑥三ロ |
・ | 交際費課税における中小企業者の定額控除限度額の損金算入の特例 | 措法61の4⑤ |
この他、所得税や相続税・贈与税の規定にも対象となるものがあります。
詳しくは国税庁HP 👈(クリック)をご参照ください。
例えば、受取配当金の益金不算入では次のように改正されました。
改 正 前 | 改 正 後 |
⑦ 第1項の規定は、確定申告書に益金の額に算入されない配当等の額及びその計算に関する明細の記載がある場合に限り、適用する。この場合において、同項の規定により益金の額に算入されない金額は、当該金額として記載された金額を限度とする。 | ⑧ 第1項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に益金の額に算入されない配当等の額及びその計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。この場合において、同項の規定により益金の額に算入されない金額は、当該金額として記載された金額を限度とする。 |
この改正により、当初申告で受取配当金の計算に誤りがあったとしても、更正の請求で申告の是正ができるようになりました。
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【コラム】期限内申告要件
税金の申告にあたって、納税者にとって有利になる制度の適用を受けるための意思表示を、申告期限内の申告で行われなければならないものと、当初の申告において行われなければならないものがあります。
前者を”期限内申告要件”といい、後者を”当初申告要件”といいます。
ちょっと見には同じもののようですが、後者には期限内申告の他に期限後申告も含まれています。
いずれの場合も原則として、更正の請求や修正申告で新たに制度を適用させることはできません。
期限内申告要件のある特例には次のものがあります。
■青色申告65万円控除(所得税関係)
青色申告者の特典の一つで、所得金額から最高65万円又は10万円を控除するという制度です。
この制度の適用を受けるための要件の一つに、次の期限内申告要件があります。
・・・明細書の添付があり、かつ、当該確定申告書をその提出期限までに提出した場合に限り、適用する。(措法25の2) |
■相続時精算課税制度(相続税関係)
この制度を選択すると、 贈与時に2,500万円までの特別控除が認められています。
ただし、贈与者が死亡して相続が発生した場合には、この特例により贈与した財産を相続財産に加算して相続税額を計算するという制度です。
つまり、生前の贈与は相続時に相続税に取り込まれて精算されるという制度です。
なお、一旦相続時精算課税制度を選択すると、暦年課税に戻ることはできません。
この制度の適用を受けるための要件の一つに、次の期限内申告要件があります。
前項(注:相続時精算課税制度)の規定の適用を受けようとする者は、・・・、第28条第1項(注:その年の翌年2月1日から3月15日までの申告期限)の期間内に・・・届出書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。 |
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【所得税・相続税】住所地と国外転出課税
所得税法と相続税法では、住所地が異なる場合があるという話です。
両者はほとんど同じなのですが、子供が海外留学をしている場合などは、所得税法では日本に住所がないものとして扱われますが、相続税法では日本に住所があるものと扱われます。(下記赤字の部分です。)
所得税法では、居住者か否かで納税義務と課税財産の範囲を定めています。
この場合の居住者ですが、「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいう。」としとしています。
さらに住所については、次の場合には日本に住所があると推定するとしています。(所令14)
・日本において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有すること。 ・日本国籍があって、日本に家族がいて、日本での職業や資産内容によって、継続して1年以上居住するものと推測するに足りる事実があること。 |
逆に、次の場合には日本に住所がないと推定するとしています。(所令15)
・国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有すること。 ・外国籍を有するなどしていて、国内に家族がいなくて、外国での職業や資産内容によって、再び帰国して日本で住むと推測するに足りる事実がないこと。 |
相続税法では、日本に住所があるか否かで、相続税の納税義務と課税財産の範囲を定めています。
この場合の住所ですが、「法に規定する住所とは各人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判定する。」としています。(相基通1の3・1の4共-5)
ただし、相続税法では所得税法とやや趣がちがって、たとえ海外に居住していても、そのことだけで直ちに住所が海外にあるとはしていません。
日本の国籍を有している者で、相続等により財産を取得した時に日本を住んでいなくても、つぎの場合は日本に住所があるとして扱うとしています。(相基通1の3・1の4共-6 )
・学術、技芸の習得のため留学している者で日本にいる者の扶養親族となっている者 ・国外において勤務その他の人的役務の提供をする者で、国外における人的役務の提供がおおむね1年以内であると見込まれる者(配偶者その他生計を一にする親族でその者と同居している者を含む。) |
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【所得税】住宅ローン減税の特例措置延長の検討
政府・与党は2021年度の税制改正で、消費増税対策として導入した住宅ローン減税の特例措置延長を検討する。現在は控除を受けられる期間を通常の10年間から13年間に延ばしているが、対象は今年12月末までの入居者。不動産業界は入居期限の2年程度の延長を求めており、政府・与党で協議する。(2020/09/25 日経)
現在一般の場合(住宅ローンの年末残高の上限:4,000万円)の住宅ローン減税は次のようになってます。
1~10年目 | 住宅ローンの年末残高×1% |
11~13年目 | 次のいずれか少ない額 ①年末残高等×1% ②(住宅取得等対価の額-消費税額×2%÷3 |
・認定長期優良住宅などの認定住宅の場合、住宅ローンの年末残高の上限は5,000万円です。
・11~13年目の算式は、2019年10月からの消費税率の2%引き上げに対応したものです。したがって、住宅取得の際に消費税率8%だった人は対象となりません。
なお、11年目~13年目のローン控除については、令和元年10月1日~令和2年12月31日までの入居が条件でしたが、新型コロナウイルス感染症等の影響により条件が緩和されています。
例えば、新築の場合は令和2年9月末までの契約、令和3年12月31日までに住宅に入居となっています。(詳しくは国税庁HP問6、問7 👈クリック)
ところで、次の表は各銀行の住宅ローン商品の人気順の金利(2020年9月1日現在:変動)です。(価格ドットコムより)
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 |
年0.410% | 年0.410% | 年0.380% | 年0.475% | 年0.870% |
住宅ローン減税は年末残高の1%です。
仮に手元に余裕資金があったとしても、住宅ローンに係る諸費用(融資手数料、団信手数料、登記費用など)を払ってでも、金利次第では住宅ローン減税を受けたほうが有利な場合もあるかもしれません。
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【所得税】義父からの住宅取得とローン控除
都内の賃貸マンションに家族で住んでいます。
義父母が有料老人ホームに入ることになり、銀行借入れで義父の一戸建て住宅(築15年)を購入することになりました。
注意すべき点を教えてほしいとのことです。
まず、仲介業者を通さない親族間の売買です。
売買価額をどう設定するかという問題があります。
土地については、路線価が容易に入手できます。(国税庁HP👈クリック)
路線価は公示地価の80%程度とされていますので、路線価を0.8で割り戻せば公示地価に準じた土地価格が出ます。
また、建物は固定資産税の評価額が使えます。(固定資産税の納税通知書に記載されています。)
路線価又は公示価格に準じた価格に地積を乗じた土地価額と建物の固定資産税評価額の合計が売買価額の目安になります。
ただし、「個人間の対価を伴う取引により取得したものの価額は、当該取得時における通常の取引価額に相当する金額によって評価する。」とする、負担付贈与通達(国税庁HP 👈クリック)があります。
できれば、近隣の不動産業者から売買価格の相場観を確認しておいた方がよいと思います。
なお、業者から不動産を購入すれば建物部分について消費税が課税されますが、義父は消費税法における事業者ではないので、当然のことながら消費税は課税されません。
銀行借入れで取得しますが、ローン控除の適用があるかどうかということです。
義父が住んでいるとのことなので中古住宅になります。
中古住宅のローン控除については、築年数又は一定の耐震基準を満たせば対象住宅となります。
築年数については、築20年(マンションなどは25年)以下が条件です。(詳しくは国税庁HP 👈クリック)
この場合、義父からの取得ですが、「取得の時に生計を一にしており、その取得後も引き続き生計を一にする親族や特別な関係のある者などからの取得でないこと。」(詳しくは国税庁HP 👈クリック)の要件を満たしていればローン控除を受けることができます。
ローン控除に関しては下記のチェック表が便利です。
令和元年分住宅借入金等特別控除を受けられる方へ(新築・購入用)(A1~A3)(国税庁HP 👈クリック)
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【所得税】雑損控除の計算式
書籍やインターネットのサイトをみていると、雑損控除の計算方法が二種類でてきます。
A:災害関連支出の有無と金額で区分
① | その年の損失の金額のうちに災害関連支出の金額がない場合又は5万円以下の場合 | 損失の金額-総所得金額等☓1/10 |
② | その年の損失の額のうちに5万円を超える災害関連支出の金額がある場合 | 損失の金額-次のいずれか低い金額 (ⅰ)損失の金額-(災害関連支出の金額-5万円) (ⅱ)総所得金額☓1/10 |
③ | その年の損失の金額がすべて災害関連支出の金額である場合 | 損失の金額-次のいずれか低い金額 (ⅰ)5万円 (ⅱ)総所得金額等☓1/10 |
B:災害関連支出の有無と控除限度額で区分
次のイ、ロのうちいずれか多い方の金額
イ | 損失の金額 - 総所得金額等 ☓ 1/10 |
ロ | 損失の金額のうち災害関連支出の金額 - 5万円 |
- 検討 -
A-① 災害関連支出の金額がない場合又は5万円以下の場合 ==> B-イ
A-②
(ⅰ)損失の金額-{損失の金額-(災害関連支出の金額-5万円)}
=災害関連支出の金額-5万円 ==> B-ロ
(ⅱ)損失の金額-総所得金額☓1/10 ==> B-イ
A-③
(ⅰ)損失の金額-5万円 ==> すべて災害関連支出の金額-5万円 ==> B-ロ
(ⅱ)損失の金額-総所得金額☓1/10 ==> B-イ
-結果-
当然のことながら、両者は同じ内容であることがわかります。
※総所得金額等
事業所得、不動産所得、給与所得などの所得を合計した金額に、これらの所得とは分離して計算する退職所得、山林所得を加算した合計所得から、純損失の繰越控除、雑損失の繰越控除を適用した後の金額をいいます。(詳しくは国税庁HP👈クリック)
※※災害関連支出
災害等に関連して住宅家財等の取壊し又は除去などのためにした支出をいいます。災害関連支出のうち、災害により生じた土砂を除去するための支出などの原状回復支出については、災害のやんだ日から1年以内(大規模な災害の場合等には、3年以内)に支出したものが対象となります。
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【所得税】預金不正流出と雑損控除
最も甘かったのは地銀とゆうちょ銀行の預金がドコモ口座から引き出された例だ。ドコモ口座は匿名のメールアドレスだけで登録できた。銀行側でも、預金口座の番号と暗証番号を入力すればドコモ口座とひもづけ、預金口座から入金できた。(2020/9/16 日経)
複数の電子決済サービスで銀行の預金が流出している問題で、不正の実態が明らかになってきた。SBI証券では不正なアクセスで9864万円が流出した。犯罪者が他のネットサービスで使ったパスワードを盗み取り、同姓同名の偽口座を作ってお金を引き出していた。犯罪の手口は高度になっている。本人確認が破られる深刻な事態で安全対策は待ったなしだ。(2020/09/18 日経)
ドコモ口座にしろSBI証券にしろ、今のところ事業者が全額保証するとしているので実害はない見込みです。
しかし、事業者からの注意喚起を無視していたり、IDやパスワードを使いまわしにしていたりしていたような場合、どこまでが事業者の責任で、どこまでが利用者の責任なのか難しい問題が出てきます。
今のところ、事業者も完璧なセキュリティー対策はないと認めています。こまめにパスワードを変更する、預貯金残高やクレジットカードの利用履歴を確認する、可能なら生体認証を利用するといった地道な努力が必要なようです。
ところで、所得税法では、こういった預貯金の不正流失やカードの不正利用などの盗難によって受けた損害については、雑損控除の対象になります。
雑損控除とは、各種所得の金額の合計額から差し引ける所得控除の一つです。災害・盗難・横領によって資産について損害が受けたことにより、担税力に影響を受けたことへの考慮、といういのが制度の趣旨です。
雑損控除の対象となる資産の範囲、損害の原因、雑損控除の金額の計算方法についてはこちら(国税庁HP 👈クリック)を参照ください。
なお、振り込め詐欺は、災害・盗難・横領のいずれにも該当しないので雑損控除の対象にはならないというのが、国税庁の見解です。
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【所得税】給与所得者の特定支出控除
給与所得者のほとんどは、給与所得についてはつぎの計算をします。
■給与所得の収入金額-給与所得控除額=給与所得の金額
特定支出の金額が給与所得控除額の1/2を超えている場合には、つぎの算式になります。
■給与所得の収入金額-{給与所得控除額+(その年中の特定支出の額の合計額-給与所得控除額の 1/2)}=給与所得の金額
特定支出とはつぎのものをいいます。詳しくは国税庁HP (👈クリック)
◇通勤費 | 通勤のために必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のための支出 |
◇職務上の旅費 | 勤務する場所を離れて職務を遂行するために直接必要な旅行に係る支出 |
◇転居費 | 転任に伴う転居のための支出 |
◇研修費 | 職務の遂行に直接必要な技術又は知識を習得することを目的として受講する研修のための支出 |
◇資格取得費 | 職務の遂行に直接必要な資格を取得するための支出 |
◇帰宅旅費 | 転任に伴う帰宅のための支出 |
◇勤務必要経費 | 職務の遂行に直接必要な支出 〔図書費、衣服費、交際費等〕(最高 65 万円) |
通常、職務に係る諸費用は会社が負担しますので、個人的に支払うケースというのはあまりないと思います。
また、給与所得控除が比較的高く設定されていることもあって、実際に特定支出控除を利用する人はほとんどいません。平成30年度分で1,704人だったそうです。
ところが、今年に入って新型コロナウイルスの感染拡大にともない、多くの企業で在宅勤務を余儀なくされました。
このような大規模かつ長期間のリモートワークというのは初めてのことなので、自宅での仕事の環境が整っていなかった人も少なくなかったと思います。
リモートワークの環境整備は会社が負担してくれる部分ありますが、何からなにまで全て会社に請求というわけにはいかなかったと思います。
国税庁ではこのような在宅勤務を想定して、特定支出に関する情報を更新しました。
結論としては、インターネット上に掲載されている有料記事の購入費は特定支出に該当するものの、机・椅子・パソコン等々は該当しないとしています。
これは、現行所得税法がそのように規定しているためやむを得ないのですが、コロナ禍に対応するよう税制改正が望まれます。
(参考)国税庁HP (👈クリック)
16 勤務必要経費(在宅勤務) 問 在宅勤務を命じられたことに伴い、職務の遂行に直接必要なものとして、次の費用を支出しました。 ⑴ 机・椅子・パソコン等の備品購入のための費用 ⑵ 文房具等の消耗品の購入のための費用 ⑶ 電気代等の水道光熱費やインターネット回線使用のための費用 ⑷ インターネット上に掲載されている有料記事購入のための費用 これらの費用に係る支出は、勤務必要経費として特定支出に該当しますか。 |
: ご質問の各費用のうち、「⑷インターネット上に掲載されている有料記事」については、一般的に不特定多数の者に販売することを目的として発行されるものですので、勤務必要経費(図書費)に該当します。 したがって、その支出がその方の職務の遂行上直接必要なものとして給与等の支払者により証明されたものは、特定支出になります。 しかしながら、その他の費用は、勤務必要経費のいずれの支出にも該当しませんので、特定支出とはなりません。 : |
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【コラム】ふるさと納税での損得
ふるさと納税 再出発 制度除外の4市町復帰 基準順守、正常運用なるか
過剰な返礼品を理由にふるさと納税制度から除外されていた大阪府泉佐野市など4市町が、8月までに制度に復帰した。6月の最高裁判決で「国による除外は違法だ」という同市の訴えが認められたためだ。復帰した市町は国が定めた返礼品の基準を守る姿勢を示す。返礼品競争や訴訟で混乱した制度が、今後正常に運用されるのか注目される。(2020/09/07 日経)
寄付(きふ、英: donation)とは、金銭や財産などを公共事業、公益・福祉・宗教施設などへ無償で提供すること。(Wikipedia)
そもそも寄付とは無償が前提であって、見返りを求めないものだと思います。2008年(平成20年)から始まったふるさと納税制度ですが、多くの人は返礼品が前提としていいるため、純粋な意味での寄付とは趣が違うと思っています。
ところで、このふるさと納税は日本全体で見れば、だれが得をして、だれが損(国・地方自治体)をしているのでしょうか。
前提条件として、・ふるさと納税する金額を10万円、・返礼品の額3万円、・所得税率を20%、・住所地を東京都世田谷区、・返礼品の生産者の利益率を20%、とします。
- ふるさと納税をした人 -
①寄付をした▲100,000円分が損となります。
②確定申告により寄付金控除100,000円-2,000=98,000円が所得控除されます。所得税率が20%とすると所得税が98,000円☓20%=19,600円減額され得します。
③地方税は、(100,000円-2,000円)×(100%-所得税率20%)=78,400円減額され得します。
④返礼品を30,000円分受け取っていますので、30,000円分得します。
①~④合計 【+28,000円】
- ふるさと納税を受けた自治体 -
寄付金を100,000円受けているので得してます。
一方、返礼品を送っていますので▲30,000円分損をします。
【+70,000円】
- 返礼品の生産者 -
返礼品の生産者の利益が仮に20%とします。
30,000円☓20%=6,000円
【+6,000円】
- 国 -
税収が▲19,600円減っているので損をしています。
【-19,600円】
- 東京都&世田谷区 -
住民税の税収が▲78,400円減っているので損をしています。
【-78,400円】
なお、ふるさと納税により住民税の税収が減少した場合は、地方交付税で75%補填されます。
しかし、東京23区を含む東京都など、比較的裕福な自治体・区市町村については不交付団体に指定されているため、これらの自治体は地方交付税で填補されません。
結局、国と住所地の自治体が損をして、寄付者と寄付を受けた自治体、及び返礼品の生産者が得することになります。
全部を足してみると+6,000円になります。日本全体で見ればふるさと納税を受けた地域の町興し、村興しに寄与しているといいうことでしょうか。
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【所得税】非上場株式の法人への譲渡
所得税法の特徴的な規定として、個人が法人に資産を贈与又は著しく低い価額(時価の2分の1未満)で譲渡した場合には、時価で譲渡したものとみなすという規定があります。(所得税法59①)
この規定の適用にあたっては、法人に贈与又は著しく低い価額で譲渡する資産の時価が問題になるわけですが、これが非上場株式であった場合、時価をどのようにして計算するのかという問題があります。
この場合の時価の算定については、相続税や贈与税で利用する財産評価基本通達178~(国税庁HP👈クリック)を準用する取り扱いになっています。(所基通59-6)
この度、この所得税基本通達59-6の適用にあたって最高裁判決が出て国の主張が認められたのですが、二人の裁判官から「59-6を分かりやすいものとするよう」とする指摘がありました。
この指摘を受けて国税庁は所得税基本通達59-6の改正を行ないました。(実質的な内容は変わっていません。)
通達改正にあたってはパブリックコメントを募集するのですが、専門家から意見に対しての国税庁の回答の中で、専門家の中で混乱のあった下記の2点について取り扱いが明らかになりました。
・御意見については、本件通達の(2)の文理上明らかであるため、通達の見直しの必要はないものと考えます。
:
本件通達の(2)は、「財産評価基本通達179 の例により算定する場合において」としていることから、評基通 179 の適用に当たっての取扱いになります。したがって類似業種比準価額の計算上、乗じる斟酌割合(評基通 180)については、評価会社が大会社の場合は 0.7、中会社の場合は 0.6、小会社の場合は 0.5 になります。
・譲渡又は贈与に係る株式の発行会社の株式を純資産価額方式で評価する場合において、当該発行会社が子会社等の株式を有しており、当該発行会社が当該子会社等の「中心的な同族株主」に該当するときには、本件通達の(2)の取扱いに準じて、当該子会社等が評基通 178 に定める「小会社」に該当するものとしてその例により当該子会社等の株式を評価することを明らかにしていただきたい。
:
御意見として承ります。
なお、本件通達の趣旨に鑑みると、御意見のとおり評価することになると考えます。
上記の内容は、ややマニアックな部分なので詳細については割愛しますが、一点目は、株価を評価する場合は小会社として評価するのだけれども類似業種比準価額の斟酌割合は会社の規模に応じて乗じる、二点目は評価する会社の子会社も小会社として評価するとうもので、実務家の中では混乱していた部分なのです。
国税庁のコメントとして「・・・文理上明らかであるため、明確化の必要はないものと考えます。」と言われてしまうと、税理士として立つ瀬がありません。
なお、これらについては「今後国税庁ホームページに上記取扱いの解説を掲載する予定です。」とコメントされています。
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