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【コラム】一部の地銀では未だにフロッピーディスク(FD)
一部の地銀では未だにフロッピーディスク(FD)が使われていたのですね。
「まだフロッピーディスク(FD)を使っているのかと驚かれるが、これが現実なんです」。3.5型の雄だったソニーが国内販売を止めて10年。山形市の山形銀行事務センターには、今も多い日で1日400枚が県内各地から郵送されてくる。業務を担う山銀システムサービス業務第一部長の剣持勇が、重ねられた束を前に苦笑いした。
(日経 2021/02/05)
もっともこの記事に出てくる山形銀行や他の地銀の多くも今年の3月末で取り扱いを終えるようです。
理由は、関連機器が故障しても修理できないこと、銀行の事務コストが大きく採算が合わないことによるようです。
最近、もう一つ驚いたことがありました。
弊行では、かねてよりお取引のある自治体さまと、税公金の取扱いに関する協議を行って参りましたが、2021 年 3 月末をもって、一部の自治体さまと税公金の取扱いを終了させて頂くことになりました。(三菱 UFJ 銀行のHPより 👈クリック)
口座振替やインターネットバンキングなどは引き続き利用できるようです。
かつては銀行側も、たとえ事務コストで採算が取れなくても、自治体の税公金の指定金融機関になることにより、公金の運用や地方債の引き受けといった取引で旨味がありました。
ところが最近の金余りや超低金利でこれらの旨味がなくなり、残ったのは銀行側の事務コストだけになってしまいました。
そのため、銀行としては採算の取れない支店は手数料の値上げを自治体に求めて来ました。結果、自治体に手数料の値上げが受け入れられなかったため、税公金の指定金融機関を辞退することになったようです。
経済産業省は2026年をめどに手形の廃止を目指すようです。また、政府は2022年1月から、所得税や贈与税などで30万円以下の国税は、スマートフォン決済アプリで納付できるようにするそうです。
時代は刻々と変化しています。不自由がないからと今のやり方にこだわっていたら、周回遅れになるのかも知れません。
ちなみに、現在の国税の納付方法は、従来からある納付書による窓口納付や振替納税だけではなく、インターネットバンキングやクレジットカードによる納付も認められています。
(国税庁👈クリック)
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【コラム】後期高齢者の窓口負担
後期高齢者の医療費の窓口負担が見直されようとしています。
政府は5日、年収200万円以上の後期高齢者が支払う医療費の窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法案を閣議決定した。現役世代の健康保険料の伸びを抑えられるが、軽減効果は2025年度で1人あたり年800円にとどまる。給付と負担の見直しは今後も欠かせない。(日経 2021/02/06) |
現状の後期高齢者の窓口負担は、次のようになっています。
自己負担割合 | 前年分の住民税課税所得※ |
1割 | 同じ世帯の被保険者全員がいずれも145万円未満の場合 |
3割 | 同じ世帯の被保険者の中に145万円以上の方がいる場合 |
※詳しくは東京都後期高齢者医療広域連合HP参照👈クリック
この住民税課税所得ですが、上場株式等の配当等がある方は、思わぬところで窓口負担が3割になっていまう場合があります。
例えば勤めていた会社が上場会社でその会社の株式を保有していたことにより、毎年配当等を受け取っていたとします。上場会社の配当等には申告不要制度があるため、源泉徴収(所得税等15.315%、住民税5%)だけで課税を終わらすことができます。
ところが確定申告すれば所得税等が還付されることを知り確定申告しました。その結果、税金は還付されたものの配当所得が生じたため、住民税課税所得が145万円をオーバーしまい窓口負担が3割になってしまったということもありえます。
このような場合は、上場株式等については所得税と住民税で異なる課税方法を選択できなす※ので、所得税では総合課税、住民税では申告不要を選択すればこのような事態は回避できます。
※(参考千代田区HP)👈クリック
また、前年の住民税課税所得が145万円以上であっっても、次の要件を満たせば、住所地の市区町村に申請し認定を受けることにより、自己負担の割合を1割に変更することができます。(毎年、申請が必要です)。
後期高齢者医療被保険者数 | 前年の収入判定基準 |
世帯に1人 | 収入額が383万円未満(ただし、383万円以上でも、同じ世帯に他の医療保険制度に加入の70~74歳の方がいる場合は、その方と被保険者の収入合計額が520万円未満) |
世帯に複数 | 収入合計額が520万円未満 |
ここで注意なければならないのは、収入金額で判定する点です。この点について東京都後期高齢者医療広域連合のホームページに下記の説明書きがあります。
収支上の損益にかかわらず、確定申告したものはすべて上記収入金額に含まれます(ただし、上場株式等に係る配当所得等及び譲渡所得について、個人住民税において申告不要を選択した場合は含まれません)。 例)土地・建物や上場株式等の譲渡損失を損益通算又は繰越控除するため確定申告した場合の売却収入等も収入に含まれます。 |
詳しくは東京都後期高齢者医療広域連合HP参照👈クリック
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【コラム】書類の発信主義と到達主義
意思表示の効力が発生する時期には、相手方に到達した時とする「到達主義」と、その発信の時とする「発信主義」があります。
民法では、「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。(民法97①)」として到達主義を原則としています。
税務申告や届け出書類にこの「到達主義」厳密に適用してしまいますと、期限間近の納税申告書や届出書等の書類は怖くて郵送による提出はできなくなってしまいます。
なぜなら、期限後申告になったり、定められた期限までに届出書が届いていないため予定していた制度の適用が受けられなくなる恐れがあるためです。
まず申告書関係ですが、これは従来より民法の定めに関わらず、国税通則法22条で「発信主義定」が適用され、通信日付印により表示された日が提出日とみなされてきました。
しかし、それ以外の届け出関係書類は民法の「到達主義」が適用されていました。
そのため、どうしても地理的な有利不利や郵便事情による影響がありました。
そこで平成18年度の税制改正で、上記国税通則法はつぎのように赤字部分が追加されました。
第22条 郵送等に係る納税申告書等の提出時期 納税申告書(・・・)その他国税庁長官が定める書類が郵便又は信書便により提出された場合には、その郵便物又は信書便物の通信日付印により表示された日(・・・)にその提出がされたものとみなす。 |
この改正により、ほとんどの書類について発信主義が適用されることになりました。
詳しくは国税庁HP👈クリックをご参照ください。
このように通信日付印が期限までに申告書や書類等を提出した証になるため、多額の納税申告書や重要な届出書は簡易書留やなどで送ることをお勧めします。
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【コラム】未成年者が相続人
父(母)が若くして亡くなると、未成年者が相続人になる場合があります。
それ以外にも、祖父(祖母)が孫を養子縁組していていると、孫も子として相続人になります。
また、祖父(祖母)が亡くなったが、祖父(祖母)よりも先に父がなくなっていたために代襲相続人として未成年者の孫が相続人になるというケースも考えられます。
相続が発生した場合、遺言書がない場合は共同相続人間で遺産分割協議を行うことになりますが、遺産分割協議は法律行為に当たります。
ところが、未成年者は法律行為ができません。
そこで未成年者が法律行為を行う場合は、法定代理人を立てることになります。
未成年者の法定代理人は、通常親権者である父母がなります。
民法5(未成年者の法律行為) ①未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。・・・。 : 民法818(親権者) ①成年に達しない子は、父母の親権に服する。 : 民法824(財産の管理及び代表) ①親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。 : |
未成年の子の父(母)も相続人の場合、未成年の子との間で利益相反の関係になってしまいます。
例えば、父が亡くなった場合の相続人は妻とその子ですが、妻自身が相続人であるとともに未成年の子の法定代理人になってしまうケースです。
このような場合は、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に特別代理人の申立てて、裁判所に特別代理人の選任が認めて貰う必要があります。
通常は、未成年の子の祖父母に特別代理人はなってもらうことが多いようです。
祖父母が既に亡くなっている、あるいは認知症などの理由で特別代理人になれないといった場合は、夫(妻)の兄弟などの親戚になってもらうか、費用がかかるけれども弁護士などの専門家になってもらうことになります。
遺産分割に期限がないので、子供が成人するまで遺産分割を留保するという考え方もあります。
しかし、遺産分割を行わないと不動産の名義変更ができませんし、銀行預金の引き出しも難しくなります。
特別代理人の候補がいない場合、万一に備えて夫婦がそれぞれ「財産は法定相続分とする遺言書」を用意しておけばこのようなことを回避できるのではないでしょうか。
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【コラム】これからの25年
日本経済新聞によると、明治政府が国の方向性を示した五箇条の御誓文が1870年、その75年後が太平洋戦争の敗戦の年1945年、そして新型コロナウイルスがその75年後の2020年だそうです。
そのほかにも様々な周期説があって、その中に25年単位説(東大大学院情報学環の吉見俊哉教授)というのもあるそうです。
この根拠となっているのは、「親と子の平均的な時間距離である25年という世代の間隔」で、ある影響力のある世代(「戦中派」「団塊の世代」「バブル世代」)が衰えると、その25年後の次の世代が影響力を発揮するとのことです。(日経 2021/01/04)
周期説の真偽はわかりませんが、なるほどここ20年~30年の間に生活環境は様変わりしました。
・Windows95が出たのかが1995年(25年前)、
・Googleが設立されたのが1998年で日本で事業を開始したのが2005年~2006年(20年前)、
・Amazonが設立されたのが1994年で日本語サイトができたのが2000年(20年前)、
・AppleのiPhoneの初代が2007年で日本では3Gからで2008年(12年前)です。
(以上、Wikipediaを参考にしました。)
おもしろいのは金利で、25年前の1995年の短期プライムレート(最優遇貸出金利)は1.625%で、その後大きな変動はなく2020年も1.475%です。ちなみに1990年(平成2年)がピークで8.0%です。(日本銀行、長・短期プライムレート(主要行)の推移より)
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により日常生活が一変しました。
会社への通勤、顧客への訪問・出張などの移動が制限される中、多くの企業で働き方が見直されました。在宅によるリモートワークやZOOMなどの通信による面談が定着しつつあります。
さらに、多くの人が集まることを前提とした飲食店や観光事業などは、ビジネスモデルそのものの見直しを迫られています。
一方では、人間の無制限な経済活動によりこのままでは地球の持続可能性が危ぶまれているとして、SDGs「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」が数年前から徐々に注目されてきています。
政府は、新型コロナウイルスのワクチンを今年の6月までに8千万人分(2回接種)用意し、うまくすれば7月21日からの東京オリンピックまでに1億人分のワクチンを確保できるとしています。
オリンピックが予定通り開催されるかどうかはわかりませんが、ワクチンの効果がありコロナに打ち勝つことができれば、それに越したことがありません。
しかし、コロナウイルスが変異を繰り返し収束しないことも現時点では視野に入れておく必要があリます。
幸いコロナ対策として、当分の間は日銀により十分な資金供給され、低金利も続くものと思われます。
2021年は、コロナと共存する、あるいは環境に配慮したビジネスモデルを模索していく年になると思います。
もちろん、われわれ税理士事務所も例外ではありません。
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【コラム】書類のスキャナ保存
財務省は企業の経費精算で紙に基づいた税務処理の手続きを見直す。現在は領収書を電子的に読み込んで保存する場合、税務署の事前承認を得たうえで事後的に原本との照合も求められる。こうした煩雑な要件を廃止し紙の書類を廃棄しやすくする。2021年度税制改正での実現をめざす。
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これまでに税務署が承認した電子保存も4千件程度にとどまっているようだ。普及を促すため煩雑な手続きを改める。税務署の事前承認や定期検査は不要にする方向だ。スキャナー保存後に電子データの日時を証明するタイムスタンプを打てば原本の廃棄も認める。(2020/11/08 日経)
早ければ来年(2021年)にもデジタル庁が創設される見込みであることから、財務省としては先手を取ろうということでしょうか。
現行の電子帳簿書類保存法では、電磁的記録による保存、COM(電子計算機出力マイクロフィルム)による保存、スキャナによる保存が認められています。
上記記事はこのスキャナによる保存に関連するものですが、その適用を受けるための要件は極めて煩雑なものとなっています。
例えば、入力期間の制限(おおむね7営業日以内)、タイムスタンプ の付与(例えば1,000スタンプ8,000円といったコストが発生)、適性事務処理要件(相互けんせい、定期的な検査)、帳簿との相互関連性の確保、検索機能の確保、等々です。(詳しくは国税庁H P参照)
単純にPDFにして保管したのでいいじゃないかという意見もあると思いますが、今のPDFはセキュリティーをかけても容易に編集ができてしまいます。
そうすると、データの改ざんができないタイムスタンプ(参考:アマノセキュアジャパンのHP)が必要となりますし、制度の円滑な運用を考えると入力の期間背制限や相互けんせいなども要件として必要になってきます。
つまり、相当程度の経理体制が整った会社でなければ、スキャナ保存一つとってもなかなか実施は難しいのではないかと思います。
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【コラム】金の密輸
消費税不正、40億円を追徴課税…金地金買い取り業者など80法人・個人
国税当局が、全国の免税店などを対象に消費税の不正申告の有無を調べる一斉税務調査を行い、約80の法人と個人に計約40億円を追徴課税したことが関係者の話でわかった。うち約30億円は金地金買い取り業者2社への課税で、中国人などから金地金を買い取ったとする帳簿の記載に裏付けがないと判断された。(2020年10月28日 読売新聞)
金地金密輸のスキーム
①日本から現金を持ち出す。(仮3,500万円)
②香港・シンガポールなど消費税がかからない国で金地金を購入する。(仮5kg 3,500万円)
③税関で輸入申告をしないで入国
※本来なら携帯品・別送品とした場合でも輸入消費税10%がかかります。
※実際には、現地で買い付けた金地金を小分けにして運び屋を使うようです。
※地金(純度 90%以上)の重量が 1 ㎏を超える場合は、税関へ「支払手段等の携帯輸出・輸入届出書」を提出しなければなりません。(通関案内PDF参照)
④密輸業者は金の買取業者に消費税10%を上乗せして売却(消費税分350万円の儲け)
※3,850万円-3,500万円=350万円
⑤金の買取業者から大手商社に転売
※買取価額と売却価額との差が利益になります。
⑥大手商社が金国際市場へ輸出(ロンドン、シンガポール、香港等)
※買取価額と売却価額との差が利益になります。
※消費税分350万円は輸出免税として還付されます。
(財務省資料を参考としました。)
金地金の密輸の対策としては、密輸業者を厳しく取り締まる一方、密輸しても用意に換金できないような仕組みづくりが必要です。
平成30年度の税制改正で罰則の強化(財務省:税制改正の解説より)
罰則規定 | 改正前 | 改正後 |
消費税法第64条 (消費税ほ脱) |
1,000万円 又は 脱税額が1,000万円超の場合は脱税額 |
1,000万円 又は 脱税額の10倍が1,000万円超の場合は脱税額の10倍 |
地方税法第72条の109 (地方消費税ほ脱) |
1,000万円 又は 脱税額が1,000万円超の場合は脱税額 |
1,000万円 又は 脱税額の10倍が1,000万円超の場合は脱税額の10倍 |
関税法第111条 (無許可輸出入罪) |
500万円 | 1,000万円 又は 貨物の価格の 5 倍が1,000万円超の場合は貨物の価格の 5 倍 |
令和元年度税制改正で金地金等の密輸に対応するための消費税における仕入税額控除の見直し(財務省:税制改正の解説より)
改正前 | 改正後 |
金地金等の課税仕入れについては、 ・密輸品であったとしても、 ・課税仕入れ等の事実を記載した帳簿を保存することに より、仕入税額控除が可能 |
⑴仕入税額控除の要件強化 金又は白金の地金に係る仕入税額控除について、「本人確認書類※の保存」を要件に追加する。 ※本人確認書類 個人:免許証、パスポート等 法人:登記事項証明書等 |
⑵仕入税額控除の制限 密輸品と知りながら行った課税仕入れについて、仕入税額控除を認めないこととする。 |
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【コラム】税務署からの預貯金の照会
現在、行政から金融機関等(銀行、証券会社、生命保険会社、損害保険会社)への預貯金等の照会は書面で行われていて、年間6000万件に及ぶそうです。
そのうち、約1割が国税関係とのことです。(金融機関×行政機関の情報連携検討会 令和元年11月より)
このうち国税庁の預貯金等照会業務がいよいよデジタル化しそうです。
2020年9月24日
株式会社NTTデータ
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本実証実験は、国税庁における預貯金等照会業務のデジタル化の実現に向けて、国税庁および金融機関における業務効率化効果および事務フローを検証するものです。具体的には、株式会社東邦銀行、株式会社横浜銀行、株式会社福島銀行、株式会社ゆうちょ銀行の協力のもと、これまで紙で行っていた事務作業をデジタル化した場合の削減時間の検証、デジタル化に対応した事務フロー等の環境テスト等を行います。
本実証実験を通じて、NTTデータは、国税庁および金融機関における業務効率化に貢献するとともに、「デジタル・ガバメント実行計画」に掲げられている「金融機関×行政機関の情報連携(預貯金等の照会)」を通じた行政手続のデジタル化を実現すべく、2021年度末までに120の金融機関および300自治体への導入を目指します。
株式会社NTTデータHP参照(👈クリック)
この国税庁の預貯金等照会業務ですが、金融機関×行政機関の情報連携検討会の資料の工程表によると、2022年(令和4年)頃から順次実施となっています。
今年政府は、マイナンバーと金融機関等の口座のひも付け義務化を一時検討としていました。
菅義偉内閣に変わっても、デジタル庁の創設など規制改革と行政改革を進めるとしています。
個人の所得税の確定申告は電子申告が普及し、現在約6割がe-Taxを利用しています。
つまり個人の確定申告社の6割のマイナンバーは課税当局が把握しているということです。
課税庁はマイナンバーをキーとして、金融機関等に預貯金等の照会を行い、預貯金、証券、生損保の情報を用意に把握できることになる日も遠い先ではないかもしれません。
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【コラム】税制改正の動向
毎年の税制改正は、概ね次の日程で行われます。
①8月頃(今年は8月31日期限でした)
各省庁から「税制改正要望」が出され、国税は財務省が、地方税は総務省が取りまとめます。
主な項目を拾い上げ末尾に掲げましたが、今年は要望項目数153、廃止・縮減項目数3だそうです。
②12月頃「税制改正大綱」が発表
自民党税制調査会(甘利明会長)は20日、2021年度税制改正に向けた議論を始めた。新型コロナウイルスの影響で落ち込む消費を喚起するため住宅や自動車で税負担の軽減策を検討する。企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の促進に向けて減税先行で優遇策を探る。(2020年10月21日 日経)
各省庁から税制改正要望が出揃うと、与党の税制調査会が動き始めます。
毎年いろいろな情報が公表あるいはリークされ、新聞紙面を賑わすのもこの頃です。
例えば、今年は「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の延長及び拡充(贈与税)」は内閣府と金融庁から要望が出ていますが、甘利明税制調査会長(自民党)は、縮小を含めて議論するとして牽制しています。
これらの税制改正要望を与党(自民党・公明党)の税制調査会が審議し、税制改正大綱としてまとめ上げ、翌年度の予算案と併せて閣議決定されます。
③2月頃「税制改正法案」を国会に提出
税制改正大綱に基づき、国税については財務省、地方税については総務省が税制改正法案を作成し、2月頃に「税制改正法案」として国会に提出されます。
④改正法案が可決・成立し施行
国会に提出された税制改正法案は、衆議院・参議院の両方で審議され、例年3月末までに成立し、4月1日から改正法が施行されます。
(財務省HP より👈抜粋)
贈与税 | ■結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の延長及び拡充 |
所得税・法人税 | ■試験研究を行った場合の法人税額等の特別控除の拡充及び延長 |
所得税 | ■子育て支援に要する費用に係る税制上の措置 |
所得税 | ■第三者への事業承継に係る課税猶予措置 |
相続税 | ■上場株式等の相続税に係る見直し |
相続税 | ■死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げ |
贈与税 | ■教育資金一括贈与に係る贈与税の非課税措置の延長 |
贈与税 | ■結婚・子育て資金一括贈与に係る贈与税の非課税措置の延長 |
所得税・法人税 | ■中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額等の特別控除(中小企業投資促進税制)の延長 |
酒税 | ■ビールに係る酒税の税率の特例期間の延長 |
法人税 | ■交際費課税の特例措置の拡充 |
所得税・法人税 | ■自社株式等を対価とした株式取得による事業再編の円滑化措置 |
法人税 | ■中小企業者等の法人税率の特例の延長 |
所得税・法人税 | ■所得拡大促進税制の見直し及び延長 |
相続税・贈与税 | ■非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度の見直し |
登録免許税 | ■土地の所有権移転登記等に係る登録免許税の特例措置の延長 |
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【コラム】書面添付制度
税理士法では、申告書と共に次の2つの書類を提出している場合は、税務調査の通知前に、その税理士に、添付書面に記載された事項に関する意見を述べる機会を与えなければならないとされています。
■税理士に申告を依頼した場合に申告書と一緒に提出する「税務代理権限証書」
■申告書の作成に関し、計算し・整理し・相談に応じた事項を記載した「一定の書面」
これを総称して書面添付制度と言います。
平成13年の税理士法改正で、事前通知前の意見聴取制度が創設されましたが、次のとおりあまり普及していません。
(単位:%)
年 度 | 平成26年度 | 27年度 | 28年度 | 29年度 | 30年度 |
所得税 | 1.1 | 1.2 | 1.3 | 1.3 | 1.4 |
相続税 | 11.8 | 13.6 | 15.6 | 18.2 | 20.1 |
法人税 | 8.4 | 8.6 | 8.8 | 9.1 | 9.5 |
-財務省HPより-
所得税の書面添付の割合が低いのは、確定申告期限(2月16日~3月15日)が区切られているため税理士もそこまで手が回らないといった事情があるのだと思います。
一方、相続税では5件に1件は書面添付がなされていますが、これはお亡くなりになられてから申告まで10ヶ月あり、財産調査など余裕をもって取り組めるからだと思います。
法人税は申告の件数も多いですが、申告業務だけの場合から、毎月訪問して会社の資料を詳しく見ている場合まで、法人の規模や経理体制によって関与の仕方にバラツキがあることがこの数字に現れていると思います。
納税者にとって、この書面添付制度のメリットは次の2つだと思います。
■調査省略について
記載内容が良好で、税理士に対しての意見聴取の結果、疑義が解消し、結果として調査の必要性がないと認められた場合には、納税者の事務所等に臨場して行う帳簿書類の調査が省略されることがあります。
■過少申告加算税について
税務署の調査を受けた後の修正申告では、過少申告加算税(追徴税額の10%又は50万円のいずれか多い方)がかかります。
一方、自主的に修正申告をした場合は、この過少申告加算税が課されません。
この書面添付制度に基づく税理士からの意見聴取後、自主的に修正申告書が提出された場合、原則加算税は課さない取扱になっています。
国税当局では、意見聴取の機会の積極的な活用に努めることとされており、個別・具体的な非違事項の指摘に至る場合もあるものと考えられます。 なお、意見聴取が行われ、その後に修正申告書を提出したとしても、原則として、加算税は賦課されませんが、当該修正申告書を意見聴取の際の個別具体的な非違事項の指摘に基づいて提出するなど、「更正の予知」があったと認められる場合には、加算税が賦課されることになります。(国税庁HP 👈クリック) |
書面添付制度にはこのようなメリットがあるのに何故普及が進まないのでしょうか。
おそらく税理士が申告書の作成に関し、計算・整理・相談に応じた事項を記載した書面を作成するためには、納税者と常日頃から相当突っ込んだ情報共有をしている必要があるからだと思います。
次は、日本税理士連合会が公表している「良好ではない添付書面の記載」です。
①空欄が多いもの
②「特になし」や「特段なし」などの記載が多いもの
③毎期ほとんど定型的な文章が記載されているもの
④どの関与先についても記載内容がほぼ同一のようなもの
⑤その関与先固有の内容が記載されていないもの
⑥業種、業態、経営状況の中味を評価、分析していないもの
⑦決算の修正事項に関し全く記載がないもの
⑧記載している項目について明らかに不備があるもの
⑨記載内容が具体的でないもの
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