暗号資産はボラティリティ(値動きの幅)が大きいことから投資目的で購入されることが多いと思われますが、暗号資産を買い物や給料の支払手段として利用することもできます。
ただし、税金の計算においては支払いの対価に当てた際にも暗号資産を取得した時と利用時の価格の差について所得(又は損失)が発生することになるので注意が必要です。
暗号資産と確定申告
暗号資産の所得区分
暗号資産取引で利益が生じた場合、所得税法上は通常雑所得になります。暗号資産取引の収入で生計を立てているような場合は事業所得ということもあり得ますが、ほとんどの場合は雑所得でしょう。なお、雑所得の損失(赤字)は、給与所得や事業所得等の所得と通算(損益通算)することできません。ただし、雑所得の中での他の所得(例えば、公的年金、原稿料、講演料等)との通算(内部通算)は可能です。
確定申告義務
給与所得者のほとんどは、会社の年末調整で納税は完結しますが、一定の場合は確定申告が必要となります。例えば給与は1か所から受けていたとしても、給与所得や退職所得以外の他の所得金額の合計額が20万円を超える場合には確定申告をしなければならないことになっています。したがって、暗号資産の譲渡により雑所得が20万円を超える場合は、給与収入が2000万円以下であり、給与を1か所から受けていたとしても確定申告義務があることになります。
原価計算
譲渡原価の計算において、暗号資産の年末保有残高の計算方法には、総平均法と移動平均法があります。なお、個人の場合の法定評価方法は総平均法となります。
総平均法
年初時点で保有する暗号資産の評価額とその年中に取得した暗号資産の取得価額との総額との合計額を、これらの暗号資産の総量で除して「年末時点での1単位当たりの取得価額」とする方法です。
移動平均法
暗号資産を取得する都度、その取得時点において保有している暗号資産の簿価の総額をその時点で保有している暗号資産の数量で除して計算した価額を「取得時点の平均単価」とし、その年12月31日から最も近い日において算出された「取得時点の平均単価」を「年末時点での1単位当たりの取得価額」とする方法です。
暗号資産計算書
暗号資産の所得計算に当たっては、国税庁のHPに「暗号資産の計算書(移動平均法用、総平均法用)」がエクセルで公表されていているのでこれを利用されると便利です。
年間取引報告書
上記暗号資産の計算書は、暗号資産交換業者から交付される「年間取引報告書」から転記します。
この年間取引報告書は、国税庁から各暗号資産交換所に対して確定申告用に作成を依頼したもので、日本の大手の暗号資産交換業者概ね年間取引報告書を公表しています。
取引金額がわからない場合
平成 30 年1月1日以後の暗号資産取引については、上記の「年間取引報告書」が大手の暗号資産交換業者から入手できますが、次のような場合などで取引金額が分からない場合があります。
- 平成 30 年1月1日前の暗号資産取引
- 国外の暗号資産取引業者との取引
- 個人間取 など
このような場合は、次の方法等で所得計算をすることになります。
- 暗号資産を購入した際に利用した銀行口座の出金状況や、暗号資産を売却した際に利用した銀行口座の入金状況から、暗号資産の取得価額や売却価額を確認する。
- 暗号資産取引の履歴及び暗号資産交換業者が公表する取引相場を利用して、暗号資産の取得価額や売却価額を確認する。
なお、売却した暗号資産の取得価額を売却価額の5%相当額とすることも可能です。
時価より著しく低い金額による譲渡があった場合
所得税では暗号資産の譲渡は、不動産や有価証券等の譲渡とは異なり、棚卸資産に準ずる資産として扱われます。そのため棚卸資産と同様に暗号資産を著しく低い価額(時価の70%未満)で譲渡した場合には、その対価の額だけでなく、その対価の額と譲渡の時における時価(時価の70%)との差額についても雑所得等の総収入金額に算入する必要があります。
一方、暗号資産を著しく低い価額で購入した人は、購入した時の時価と支払った対価との差額について贈与税が課税されます。
贈与又は遺贈があった場合
暗号資産の贈与(注1)又は遺贈(注2)があった場合は、その時における暗号資産の時価が雑所得の総収入金額に算入されます。
(注1)相続人に対する死因贈与を除きます。
(注2)包括遺贈及び相続人に対する特定遺贈を除きます。
一方、贈与を受けた人は、その贈与を受けた時の暗号資産の時価に対して贈与税が課税されます。
相続があった場合
相続税法では、個人が、金銭に見積もることができる経済的価値のある財産を相続若しくは遺贈又は贈与により取得した場合には、相続税又は贈与税の課税対象となるとされています。したがって、被相続人等から暗号資産を相続又は遺贈(死因贈与を含む。)より取得した場合には、相続税が課税されことになります。
法人税の取り扱い
法人の場合の暗号資産の取り扱いは概ね個人の所得税の取扱と同じですが、法人が暗号資産を保有する場合の期末時の取り扱いについて注意が必要です。暗号資産が活発な市場が存在する(市場暗号資産)の場合は、暗号資産を時価により評価する必要があります。その結果、その評価額と帳簿価額と差額である評価損益については、その事業年度の益金の額又は損金の額に算入する必要があります。なお、法人の場合も期末に保有する暗号資産の評価方法には移動平均法と総平均法がありますが法定評価方法は移動平均法です。