−裁決とは−
税務調査などでの税務署の処分に納得がいかない場合は、納税者の手続きの一つとして国税不服審判所長に対して審査請求をする方法があります。国税不服審判所では、調査・審理し、合議の結果国税不服審判所長が出すのが裁決です。裁決には公開裁決と非公開裁決がありますが、非公開裁決であっても情報公開法に基づく開示請求は可能となっています。
−タワーマンション節税の裁決−
タワーマンションの時価と相続税評価との乖離を利用した相続税の節税対策について、税務署が否認したことから納税者が国税不服審判所に審査請求した裁決例があり、その概要はつぎのとおりです。
<認定事実>
国税不服審判所では、被相続人名義で取得した本件マンションは、被相続人の相続財産であるとした上で、事実関係についてつぎのように認定しました。
①本件マンションの購入目的は、相続税の節税のためである。
②本件マンションの購入価額は293,000,000円であり、本件マンションを評価基本通達に基づいて評価すると、土地41,181,124円、建物16,837,100円の合計58,018,224円である。
③本件被相続人名義で本件マンションを購入してから、請求人が○○○に本件マンションを譲渡するまでの間、本件被相続人が本件マンションを訪れたことはなく、請求人が、たまに窓を開け、水を流しに行く程度で、本件マンションを利用した事実は一切ない。
④請求人は、本件被相続人死亡の約4か月後には本件マンションの売却を依頼する一般媒介契約を締結した。
⑤請求人は、本件マンションをなかなか売却できず、本件マンションを、○○○に285,000,000円で売却した。
⑥○○○は本件マンションを購入した日の翌日には、本件マンションの売却を依頼する一般媒介契約を締結した。
⑦本件マンションの近傍・・・基準地の価格動向は、・・・、ほぼ横ばいの状況にある。
<本件マンションの評価方法について>
本件マンションについては、つぎの理由により一般に行われる評価基本通達よらず、他の合理的な方法による評価が許されるものと解するのが相当であるとしました。
①本件被相続人の本件マンション取得時(平成19年8月)と本件相続開始時が近接していること、
②本件被相続人の本件マンションの取得時の金額が293,000,000円であること、
③請求人から本件マンションを取得した○○○が売却を依頼した時点(平成20年7月及び同年8月)の媒介価額は、315,000,000円であること、
④本件マンションの近傍における×××の基準地の価格は、・・・、本件相続開始日の前後においてほぼ横ばいであること等
を参酌すると、本件相続開始時における本件マンションの時価は、取得価額とほぼ同等と考えられるから、本件マンションは293,000,000円と評価するのが相当である。
<法令解釈等>
時価とは、相続開始時における財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的な交換価値をいう。
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しかしながら、財産の客観的交換価値は必ずしも容易に把握されるものではないから、課税実務上は、財産評価の一般的基準が評価基本通達によって定められ、原則として、これに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされている。
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そして、上記通達に定められた評価方式が合理的なものである限り、これが形式的にすべての納税者に適用されることによって租税負担の実質的な公平をも実現することができる。
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しかし、課税手続における形式的平等を貫くことにより、かえって納税者間の実質的な租税負担の公平を害することとなる場合には、形式的平等を犠牲にしても、実質的な租税負担の平等の実現を図るべきであり、具体的な相続財産の価額の評価について、評価基本通達によらないことが正当として是認されるような特別な事情がある場合には、評価基本通達によらず、他の合理的な方式によってこれを評価することが相続税法第22条の法意に照らして当然に許されるものというべきである。
上記<法令解釈等>に記載されているとおり、かならずしも相続財産や贈与財産を財産評価基本通達にしたがって評価していればOKとうわけではありません。じつは、この財産評価基本通達にもその点をうたっていて、やはり過度な節税対策は否認のリスクと隣り合わせといわざるをえません。
財産評価基本通達 第1章 総則 6項この通達の定めにより難い場合の評価 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。 |
∞∞ 吉岡 ∞∞