事業承継

事業承継はオーダーメイドです

会社を創業して、10年後に存続している割合は6%、30年後だと1%を切るといわれています。
その中で会社を次の世代にうまくバトンタッチしていくというのは、至難なことです。

事業承継と一口でいっても、こうすればスムーズに事業承継ができるという特別な方法があるわけではありません。
計画を立てて、時間をかけてひとつひとつ実行していくことになります。

事業承継には、ビジネスそのものの承継と会社の株式の承継があります。

ビジネスの承継のポイントは後継者選びとタイムスケジュールです

後継者候補選び

まずは誰を後継者にするかですが、つぎのような留意点があります。

  • 会社には、従業員やその家族の生活、仕入れ先や下請先の存続がかかっています。
    後継者については経営者としての資質が最優先されるべきだと考えられます。
  • 従業員や取引先からも違和感がない立場の人が望ましいと思われます。
    一般的には親族から、できれば社長の直系の人がよいでしょう。
  • できるだけ平等にということで、長男社長、次男専務あるいは娘婿といったケースをときどき見かけます。
    これが一概に悪いというわけではありませんが、それぞれが実力をつけてくると経営方針で意見の食い違いが出て、会社に社長派・専務派ができてしまうことがありますので、親族役員は慎重におこなう必要があります。
  • 後継者候補はいるが年が若すぎるといったケースがあります。
    このような場合は、信頼のできる適任者にワンポイントで社長をやってもらったほうが取引先や従業員などの関係で収まりがよいこともあります。

タイムスケジュール

後継者候補が決まれば、つぎにタイムスケジュールを検討することになります。
その際には、社長と後継者候補の年齢差を常に考慮します。

例えば、後継者候補が大学生なら、卒業したら外に一旦出すか直ぐに入社させるか、自分が何歳の時に後継者候補を取締役にするか、さらにいつ常務や専務にするか、何歳で自分は身を引くかなどおおよそのスケジュールを考え、修正が必要な場合は適宜柔軟に修正していきます。

株式の承継のポイントは、名義株の整理、移転株式の割合及び移転方法の検討です

名義株の整理

株式の承継を検討するにあたって、まずやっておかなければならないのが名義株などの整理です。

名義株の典型例としては、旧商法時代には原則として株主が7名以上でないと株式会社がつくれなかったので、お金は社長から出ているが名義だけ親戚や知人から借りているケースがあります。
それ以外にも様々な理由から世間には名義株が存在します。

ところが、この名義株の整理は意外とやっかいな場合があります。
例えば、社長は名義株だと思っていても配当金を支払うなどしていたため事実上相手に贈与されているのではないかと思われるケース、名義を借りる際に覚書等の記録を残さなかったため相手が居直ったケース、名義株主の死亡により相続されて次の世代に移っていたケースなどいろいろあります。

名義株を次の世代に残してしまうと、子供達は名義株が生じた経緯を知らないため対処できないのです。
これは現社長の時代に解決しておかなければなりません。

後継者候補の株式保有割合の検討

株主が確定したら、後継者候補にどの程度の割合を持たせるかを検討します。

会社の経営を支配するのに必要な株数は、最低でも特別決議事項(定款変更、取締役・監査役の解任、会社の解散・合併、事業譲渡、資本の減少等)ができる3分の2以上の株式を持たせる必要があります。

それでは、残り3分の1は他の兄弟姉妹に持たせてよいかというと、この場合も慎重に検討しなければなりません。
今は仲のよい兄弟姉妹であっても、将来にわたってずっと仲が良いとは限りません。
さらに、兄弟姉妹に相続が発生した場合、そのつぎの世代が同族株主になってしまい、長い目で見れば、ねずみ算式に株主が増えてしまいます。

専門家の目から見れば、相続税の負担や遺留分などの問題がありますが、可能な限り後継者候補に、できるだけ多くの株式を承継させることが望まれます。

この他、相続税対策を兼ねて取引先との相互持ち合い、従業員持株会・役員持株会の設立なども考えられますが、これらにも一長一短があります。

後継者候補への株式移転方法の検討

生前に後継者に株式を移転させる場合には、つぎの方法の活用が考えられます。

<暦年贈与>
メリットとして贈与税の基礎控除110万円/年が使えます。

デメリットとして贈与税率は相続税率よりも累進度が高いため、1年間で移転させる株式数に限りがあります。

<相続時精算課税制度>
メリットとして2,500万円までの特別控除があり、これを超えた場合はその超えた額の20%の税負担で株式の移転ができます。
この制度は、将来の相続時にこの贈与した財産と相続財産を合計した価額を基に相続税額を計算しますが、その合計する贈与財産は贈与時の価額とされています。
したがって、将来同族株式の価値が上昇した場合、相続税の節税効果があります。

デメリットとして、将来同族株式の価値が下落した場合、余分な相続税の負担が生じます。

<非上場株式等の贈与税・相続税の納税猶予の特例>

後継者である受贈者・相続人等が、円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その納税が猶予される制度です。

この事業承継税制には、現在、一般措置と特例措置の2つの制度があり、特例措置については、事前の計画策定等や適用期限が設けられていますが、納税猶予の対象となる非上場株式等の制限(総株式数の最大3分の2まで)の撤廃や納税猶予割合の引上げ(80%から100%)がされているなど優遇されています。

特 例 措 置 一 般 措 置
事前の計画策定等 5年以内の特例承継計画の提出
平成30年4月1日から
令和5年3月31日まで
不要
適用期限 10年以内の贈与・相続等
平成30年1月1日から
令和9年12月31日まで
なし
対象株数 全株式 総株式数の最大3分の2まで
納税猶予割合 100% 贈与:100% 相続:80%
承継パターン 複数の株主から最大3人の後継者 複数の株主から1人の後継者
雇用確保要件 弾力化(注1) 承継後5年間
平均8割の雇用維持が必要
事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除 あり(注2) なし
相続時精算課税の適用 60歳以上の者から20歳以上の者への贈与 60歳以上の者から20歳以上の推定
相続人(直系卑属)・孫への贈与

(注1)雇用の平均が、贈与時・相続時の雇用の8割を下回った場合には、下回った理由等を記載した報告書を都道府県知事に提出し、確認を受けなけえばなりません。

(注2)次の場合には、猶予税額が免除されます。

<贈与税>

  1. 先代経営者等(贈与者)が死亡した場合
  2. 後継者(受贈者)が死亡した場合
  3. (特例)経営贈与承継期間内において、やむを得ない理由により会社の代表権を有しなくなった日以後に免除対象贈与を行った場合
  4. (特例)経営贈与承継期間の経過後に免除対象贈与を行った場合
  5. (特例)経営贈与承継期間の経過後において会社について破産手続開始決定などがあった場合
  6. 特例経営贈与承継期間の経過後に、事業の継続が困難な一定の事由が生じた場合において、会社について、譲渡・解散した場合

<相続税>

  1.  後継者が死亡した場合
  2. (特例)経営承継期間内において、やむを得ない理由により会社の代表権を有しなくなった日以後に免除対象贈与を行った場合
  3. (特例)経営承継期間の経過後に免除対象贈与を行った場合
  4. (特例)経営承継期間の経過後において、会社について破産手続開始の決定などがあった場合
  5.  特例経営承継期間の経過後に、事業の継続が困難な一定の事由が生じた場合において、会社について、譲渡・解散した場合

<相続財産に係る非上場株式を発行会社に譲渡した場合のみなし配当の特例>
通常、発行会社に同族株式を譲渡すると、配当とみなされて所得税の累進税率の適用をうけてしまいます。

相続税の申告期限から3年以内にこれを行った場合、みなし配当課税を行わずに非上場株式の譲渡として扱われ20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税率ですみます。同族会社に資金がある場合はこの制度を利用して納税資金の捻出を検討します。

なお、この特例に相続税の取得費加算を併用すればさらに所得税の負担を減らすことができます。

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