ここ数年、税制改正大綱で「資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税」が検討事項として挙げられています。
その中で、昨年(令和2年度)の税制改正大綱では、「・・・教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置及び結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置についても、次の適用期限の到来時に、その適用実態も検証した上で、両措置の必要性について改めて見直しを行うこととする。」とされていました。
これを受けて、今年(令和3年度)の税制改正で、教育資金の一括贈与は教育資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合には、23歳未満や在学中などの場合を除いて相続財産に取り込まれるなどとされた上で、2年延長されました。
また、結婚・子育て資金の一括贈与についても適用を厳しくした上で2年延長されますが、「利用件数が極めて少ないこと等を踏まえ、次の適用期限の到来時に、制度の廃止も含め、改めて検討する。」とされています。
ここで言いたいことは、税制改正大綱に記載されている「・・・検討する。」は本当に検討され、改正されるかもしれないと言うことです。
令和3年度の税制改正の「 資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税に向けた検討」(税制改正大綱18頁)を改めてみてみると次のとおりです。
■経済の活性化対策の手段
高齢世代が保有する資産がより早いタイミングで若年世代に移転することになれば、その有効活用を通じた、経済の活性化が期待される。このため、資産の再分配機能の確保に留意しつつ、資産の早期の世代間移転を促進するための税制を構築することが重要な課題となっている。 |
高齢者が金融資産を保有していても消費に回らない、高齢者が不動産を保有していても有効活用しない。
そこで税制を利用して、これらの資産を早期に若年世代に移転させることができれば、経済の活性化につながるだろうということです。
■贈与税は相続税の補完税
わが国の贈与税は、相続税の累進回避を防止する観点から、高い税率が設定されており、生前贈与に対し抑制的に働いている面がある。一方で、現在の税率構造では、富裕層による財産の分割贈与を通じた負担回避を防止するには限界がある。 |
相続税は、財産が多くなればなるほど税率が高くなる累進課税です。(相続税の税率国税庁HP👈クリック)
贈与税率が相続税率よりも低ければ、これを利用して相続税の回避ができてしましまいます。
現行では相続税も贈与税も最高税率は55%で変わらないのですが、贈与税率は移転する財産の価額が低い段階から急カーブで高くなる構造です。(贈与税の税率国税庁HP👈クリック)
■相続・贈与いずれであっても税負担が一定となる仕組みを検討
諸外国では、一定期間の贈与や相続を累積して課税すること等により、資産の移転のタイミング等にかかわらず、税負担が一定となり、同時に意図的な税負担の回避も防止されるような工夫が講じられている。 今後、こうした諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化の防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。 |
相続時精算課税を選択すると、その後の贈与税については贈与財産を累積し、特別控除額(2,500万円)までは無税、2,500万円を超えると一律20%の贈与税が課税されます。
ただしこの場合、その贈与者が亡くなった時の相続税の計算上、相続財産の価額に贈与した贈与財産の価額(贈与時の時価)を加算して相続税額を計算します。なお、相続時精算課税を一度選択すると、通常の暦年課税には戻れません。(詳しくは国税庁HP👈クリック)
今までは、基礎控除額110万円の贈与税の暦年課税が原則で、相続時精算課税はその例外として選択するという位置づけでした。
財産を生前に贈与しても、相続まで待っても税負担が一定という仕組みを想定するとなると、相続税の暦年課税から相続時精算課税のような課税の仕組みに、軸足が移るのかもしれません。
∞∞ 吉岡 ∞∞