非上場株式の相続税・贈与税納税猶予

事業承継税制は納税資金の問題を緩和します

オーナー会社、あるいは同族会社のような非上場会社の株式のことを、税法では取引相場のない株式といいます。

この取引相場のない株式は贈与税や相続税の課税対象となりますが、取引相場のない株式は一般に換金性がありません。
このため取引相場のない株式が贈与や相続により後継者に移転させようとした場合、納税資金をどのようにして調達するかという大きな問題があります。

この納税資金の問題の緩和を目的として創設されたのが事業承継税制です。

贈与税の納税猶予制度の利用は慎重に検討しなければなりません

この制度は、後継者に同族株式を贈与した場合において、一定の要件を満たし、一定の手続きをすれば、贈与税の納税が猶予されます。
猶予の対象となる株式数は、後継者が既に保有している株式を含めて3分の2まで(特例措置では全株式)です。

贈与税の納税猶予を受けていて旧経営者に相続が発生した場合、その経営者の相続税の計算に当たっては、贈与税の納税猶予の特例を受けた株式は贈与時の価額により、他の財産と合算して相続税の計算をします。

このためつぎのようなメリット・デメリットがあるので、この制度の利用は慎重に検討しなければなりません。

メリット

  • 贈与なので、後継者に株式を持たせる時期を自由に選ぶことができます。
  • 将来の相続時に贈与時の価額により他の財産と合算して相続税が計算されるので、将来同族株式の価値が上昇した場合、相続税の節税効果があります。

デメリット

  • 将来同族株式の価値が下落した場合、余分な相続税の負担が生じます。

相続税の納税猶予制度は納税資金対策としては有効です

この制度は、後継者が同族株式を相続により取得した場合において、一定の要件を満たし、一定の手続きをすれば、後継者が相続した同族株式にかかる相続税額のうち80%(特例措置の場合100%)が納税猶予される制度です。

猶予の対象となる株式数は、後継者が既に保有している株式を含めて3分の2まで(特例措置の場合全株式)です。

この制度は雇用の維持や株式の継続保有など、一定の要件はありますが、納税資金に不安があり事業承継に支障が来す場合などは選択肢の一つだと思われます。

納税猶予を受けるためには、会社・現経営者・後継者に要件があります

対象となる会社の主な要件

  • 中小企業者であること。
  • 上場会社、風俗営業会社でないこと
  • 資産管理会社に該当しないこと、など

先代経営者の主な要件

贈与税の納税猶予の場合、つぎの要件を満たす必要があります。

  • 会社の代表権を有していたこと
  • 贈与の直前において、先代経営者及び先代経営者の親族で総議決権数の過半数を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で筆頭株主であったこと

相続税の納税猶予の場合、つぎの要件を満たす必要があります。

  • 会社の代表権を有していたこと
  • 相続開始直前において、先代経営者及び先代経営者の親族で総議決権数の過半数を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で筆頭株主であったこと

後継者の主な要件

贈与税の納税猶予の場合、贈与の時においてつぎの要件を満たす必要があります。

  • 会社の代表権を有していること
  • 20歳以上であること
  • 役員等の就任から3年以上を経過していること
  • 後継者及び後継者の親族で総議決権数の過半数を保有し、かつ、これらの者の中で筆頭株主となることなど

相続税の納税猶予の場合、つぎの要件を満たす必要があります。

  • 相続開始から5か月後において会社の代表権を有していること
  • 相続開始の直前において先代経営者(被相続人)の親族であること※
    ※平成27年1月から親族外承継も認められることになりました
  • 相続開始の時において、後継者及び後継者の親族で総議決権数の過半数を保有し、かつ、これらの者の中で筆頭株主になることなど

特例措置、一般措置の概要は次のとおりです。

特 例 措 置 一 般 措 置
事前の計画策定等 5年以内の特例承継計画の提出
平成30年4月1日から
令和5年3月31日まで
不要
適用期限 10年以内の贈与・相続等
平成30年1月1日から
令和9年12月31日まで
なし
対象株数 全株式 総株式数の最大3分の2まで
納税猶予割合 100% 贈与:100% 相続:80%
承継パターン 複数の株主から最大3人の後継者 複数の株主から1人の後継者
雇用確保要件 弾力化(注1) 承継後5年間
平均8割の雇用維持が必要
事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除 あり(注2) なし
相続時精算課税の適用 60歳以上の者から20歳以上の者への贈与 60歳以上の者から20歳以上の推定
相続人(直系卑属)・孫への贈与

(注1)雇用の平均が、贈与時・相続時の雇用の8割を下回った場合には、下回った理由等を記載した報告書を都道府県知事に提出し、確認を受けなけえばなりません。

(注2)次の場合には、猶予税額が免除されます。
<贈与税>

  1. 先代経営者等(贈与者)が死亡した場合
  2. 後継者(受贈者)が死亡した場合
  3. (特例)経営贈与承継期間内において、やむを得ない理由により会社の代表権を有しなくなった日以後に免除対象贈与を行った場合
  4. (特例)経営贈与承継期間の経過後に免除対象贈与を行った場合
  5. (特例)経営贈与承継期間の経過後において会社について破産手続開始決定などがあった場合
  6. 特例経営贈与承継期間の経過後に、事業の継続が困難な一定の事由が生じた場合において、会社について、譲渡・解散した場合

<相続税>

  1.  後継者が死亡した場合
  2. (特例)経営承継期間内において、やむを得ない理由により会社の代表権を有しなくなった日以後に免除対象贈与を行った場合
  3. (特例)経営承継期間の経過後に免除対象贈与を行った場合
  4. (特例)経営承継期間の経過後において、会社について破産手続開始の決定などがあった場合
  5.  特例経営承継期間の経過後に、事業の継続が困難な一定の事由が生じた場合において、会社について、譲渡・解散した場合

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